第三十五話 中国進出
1895年 (明治28年) 11月
ハックションと市太郎がくしゃみをした。
「市太郎さん、風邪ですか?…風邪は万病のもと、と言いますから気おつけて下さいね。」
「大丈夫だ。…どこかで、資本家や投資家が俺の噂でもしているんだろ。」
「まあ、そうなら良いのですが。」
「では、会社に行ってくるよ。」
「はい、お気をつけて。」
武子は市太郎を笑顔で送り出した。
会社に到着し、会議が始まった。
「さて、俺は清に鉄道路線を敷こうと思っている。」
重役達は賛成を示した。
「清にですか。…私は賛成です。何故なら、清は日本よりも道路整備が遅れていますからな。…鉄道需要も高いと思います。」
三宅がそう言った。
実は、この時代の清は北京、天津と言った主要な道路は石を使い整備していたが、北京城内の横道や裏道ですら非常に粗末で、荒廃していた。
降雨の時期では、北京ですら泥濘馬腹と呼ばれる有様で、西洋式の馬車や人力車では通行が出来なかったと言われている。
それが、田舎の道になると始皇帝の時代から整備していないのではと思うほど、荒廃していたそうだ。
「そうだ。…それに、日清戦争で軍需産業がかなり儲かったからな。」
「はい、失敗しても会社が、びくともしないほどの資金がありますからね。」
「ああ、そうだ。…それでは、路線について決めて行きたい。…意見のある者はいるか?」
市太郎がそう尋ねると、三宅が手を挙げながら言った。
「北京〜天津間を最初に敷くのは如何でしょうか。…鉄道需要が貨物と旅客の両方が高く、清人に鉄道なれしてもらうにはちょうど良い距離だと思いましたので。」
「ふむ、俺も悪くないと思う。…一つ加えるなら、その路線と同時に北京〜上海間と北京〜威海衛間の鉄道も敷設したいと思っている。」
「北京〜上海間はわかりますが、北京〜威海衛間は何故ですか?」
「今年の4月にロシア、フランス、ドイツの三国から清に遼東半島を返還しろと圧力をかけられ、仕方なく政府は返還しただろ。」
「ええ、新聞では臥薪嘗胆で、ロシアに復讐してやろうと書いていましたね。」
「そうだな。…三宅、何故ロシアが遼東半島を返せと言って来たと思う?」
「…それは、満州にある不凍港が欲しいからなのでは?」
「まあ、そうだ。…ロシアは不凍港が欲しくてバルカン半島を南下政策で攻めたが、イギリスやフランスの支援のせいで失敗したから、今度は東アジアで不凍港を得ようとしている。…そして、遼東半島にある旅順は天然の良港だ。…恐らく、ロシアは旅順が欲しかったのだろう。…そうなると、ロシアを敵視しているイギリスはどうする?」
「ロシアの動きを監視、妨害する為に旅順の出口…つまり、黄海の出口付近に港を欲しがりますね。…そして、威海衛は黄海の出口付近にありますね。」
「そうだ。…イギリスが近い内に威海衛にやって来る。…海軍基地が出来れば、軍人が来る。…海軍軍人達の旅客需要や食料の運搬の需要で儲かると俺は思っている。」
「なるほど、腑に落ちました。…それで行きましょう。」
こうして、東亜鉄道は中国大陸に進出し始めるのだった。
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