第三十四話 日清戦争
1894年 (明治27年) 9月
1ヶ月前、遂に清との開戦の火蓋を切った。
日本軍は開戦の当初から清軍を相次いで破って行った。
そして今日、遂に平壌の戦いが始まった。
この平壌の戦いは、日本軍約10,000人、清軍約14,000人という、日清戦争最大の戦いであり、その為、日清戦争の趨勢を決める戦いでもあった。
「全軍突撃!」
指揮官がそう号令をかけると、ラッパの音と共に兵達が声を出しながら突撃を開始した。
「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」
その頃、大阪にいる市太郎はこの戦いの勝敗の報を今か今かと待っていた。
「市太郎さん、もう少し落ち着かれては如何ですか?」
市太郎が、部屋を行ったり来たりしているのを見かねて、武子が言った。
「これが落ち着いていられるか!」
市太郎は少し苛つきながらそう言った。
「はあ、…どうしてそんなに焦っているのです?」
武子が困った顔をしながらそう言った。
「…今、平壌で大規模な戦いをしているだろう。」
「ええ、新聞でもこの戦いが日本の勝敗を分けると、大々的に書かれていますね。」
「ああ、その戦いに日本が勝てば、俺は日本国債を売ろうと思ってる。」
「どうしてですか?…普通に考えたて、日本が大規模な戦いに勝てば、日本国債の価格は上がるのではないですか?」
「そうだ。…実はな、俺は清に社員を送っていてな。…そいつが平壌の戦いの戦報を他の奴らより早く送ってくれるんだ。」
「…もしかして、市太郎は国債の価格を操作しようとしています?」
武子はおずおずと尋ねた。
さて、何故武子が市太郎が国債の価格を操作しようとしていると考えたか、軽く説明しよう。
まず、市太郎は多額の日本国債を持っている。そして、市太郎は経済界では大物に入る人物だ。
…もし、そんな市太郎が平壌の戦いの勝敗の報が世間に入らぬ内に、日本国債を売り出したら、資産家達はどう考えるだろうか。
恐らく、"日本は平壌の戦いに負けたんだ"と考えるだろう。
そうなると、日本国債が紙屑になる前に我先にと日本国債を売り出すだろう。
そしたら、日本国債の需要は減り、供給はふえる。…つまり、日本国債は暴落すると言うことだ。
こうして、市太郎は価格が暴落した国債を安く買い、世間に日本が勝利したと伝われば自然に日本国債の価格は上がり、市太郎ボロ儲けできると言う算段だ。
「価格操作とは人聞きが悪い。…彼らが勝手に思い込んで、国債を売り俺がそれを安く買うだけの事だ。」
市太郎は、悪どい笑みを浮かべながらそう言ったのだった。
翌日未明に1人の男が息を切らしながらやって来た。
「会長!…起きてください!」
ドタドタ
「どうした!」
市太郎は寝巻き姿のまま玄関に出た。
「平壌の戦いの戦報が届きました!」
「何!…それで、結果はどうなんだ?」
「日本軍の勝利です!…そして、日本軍はそのまま平壌の占領に成功しました!」
「よし!…よくやった!」
市太郎は思わず笑みが溢れた。
朝日が登ると、大阪株式取引所に訪れ、市太郎は大々的に500万円(500億円)分の日本国債を売りに出した。
その市太郎の動きに気づいた、日本全国の資産家や投資家達も日本国債を売りに出した。
その為、その日の内に、日本国債の価格は目が飛び出るほど暴落した。
そして、その暴落した国債をこっそりと1000万円(1000億円)分購入したのだった。
因みにだが、いきなり日本国債が暴落した為、時の首相伊藤博文は驚きの余り、椅子から転げ落ちたとか落ちなかったとか。
市太郎が国債を売り払った翌日、日本中が歓喜に沸いた。…一部の人たちを抜いて。
何故なら、新聞で日本が進軍に勝利したと、記されていたからだ。
この事により、日本国債の価格はV字回復した。
それどころか、その翌日に知らされた黄海海戦の勝利の報により、日本国債の価格は飛ぶ鳥を落とす勢いで上がっていくのだった。
市太郎がこの一連の騒動でボロ儲けしたと言う噂を聞いた、一部の資産家や投資家は市太郎に呪詛を吐いたとか。
1895年 (明治27年) 11月
日清戦争が終わり、伊藤はこの日気になっていた、1894年に一時的に国債の価格が急落した原因を調べた。
そして、一つの資料を見つけた。
それには、その日の一番最初に取引した市太郎が500万円分の日本国債を売り払い、その日の就業時間ギリギリに日本国債1000万円分購入していた事が書かれていた。
伊藤の資料を持つ手が震えた。
「田中!貴様か!原因は!」
伊藤は思わず声に出してしまった。
しかし、声に出した事により冷静になった。
そして、あることを思いついた。
…この男を上手く使えば、日本は列強にも劣らぬ、経済大国になれるのでは?
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