第三十一話 電気軌道
1890年 (明治23年) 2月上旬
今年になって、鉄道局が鉄道庁に名称が変わった。
「会長、鉄道庁に申請した新しい路線また、棄却されました。」
三宅がうんざりしたように言った。
「またか…。…鉄道庁の嫌がらせも、ここまで来ると清々しいな。」
市太郎も呆れたように言った。
「まあ、我々も官営鉄道が威信をかけて建設した東海道線に、併設するように路線を申請していますからな。」
三宅は苦笑いしながら言った。
「ふん、鉄道路線くらい自由に引かせて欲しいものだ。…うん?」
市太郎は自分の言葉を聞いて、何かを考え始めた。
「そうだよ、俺は鉄道を引こうとしているから許可が降りないんだよ!」
「はあ?…会長、何を言っているのですか?寝言は寝て言うものですよ。」
「違う。本気で言っているんだ。…今度は鉄道路線としてではなくて、電気軌道で申請するぞ。」
「電気軌道ですか?」
「ああ、そうだ。…何やら、東亜重工が開発に成功したそうでな。」
「軌道とは馬車鉄道のようなものの事ですよ?…会長が以前おっしゃていた、電車とは違うのですか?」
「同じだぞ。」
「え?」
「電気軌道として申請すれば、鉄道庁は管轄が違うから関与できない。」
「なるほど!…ですが、電気軌道は電車とは変わらないのでしょう?そんな屁理屈、通るのでしょうか?」
「…俺も疑問だ。…東京帝国大学の教授に伺おう。」
…もし、ダメと言われたら賄賂を渡して都合の良い事を言ってもろう。
市太郎は心の中でそう呟くのであった。
だが、そんな市太郎の心配は必要なかった。
「実はかくかくしかじかでして。」
市太郎がことの顛末をすると。
「なるほど。軌道法が適用されるかと思いますよ。」
そう古市氏が答えた。
「先生!ありがとうございます!」
こうして、市太郎は電気軌道として日本初の電車を大阪〜東京間で運用するのであった。
その過程で、電気を引くために東亜電力会社を設立するのであった。
1890年 (明治23年) 2月下旬
「会長!」
三宅がドタドタと市太郎の部屋に入って来た。
「なんだ、騒々しい。」
市太郎が顔を僻めながら言った。
「何だもクソもありませんよ!…これを見てください。」
そう言って、新聞を見せて来た。
市太郎は記事の内容を読んでいくと、顔を赤くしていった。
「…どいう言う事だ!」
バンッと机を叩いた。
その記事の内容とは
東亜財閥ニヨル強引ナ地上ゲニヨル被害!
財閥ニ脅サレ、百姓泣ク泣ク土地ヲ売却ス。
こういう、見出しが付けられていた。
一応、市太郎の名誉の為に言っておくが、東亜グループは強引な地上げなどしていない。純度100%の捏造ネタである。
「…恐らく鉄道庁の差金かと。」
「そうだろな。…やられたな。」
市太郎の部屋に重たい空気が流れた。
「はい。…ですが手を打たねばなりませんね。…とりあえず会長、この件に関して事実無根であると記者会見を開きますね。」
「ああ。…三宅、ハンムラビ法典を知ってるか?」
市太郎が三宅に聞いた。
「いえ、どんな法典なのですか?」
「目には目を歯に歯を、と言うやられた分やり返せと言うものだ。」
「つまり、やり返すと言う事ですね。」
「そうだ。…首を洗って待っていろ鉄道庁。いや、井上勝。」
…今から数十年後にインドのとある弁護士は、ハンムラビ法典の事を「それでは世界が盲目になるだけだ」と言ったが、俺はそれでも構わないと市太郎は心の中で思うのだった。
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