第二十五話 カール・ベンツ
1889年 (明治22年) 5月
パリ万博をひとしきり見終わった後、市太郎一行はドイツのマンハイムに向かった。
「この小さな工場がBenz & Cie社ですか。」
三宅が見る先には、小規模の工場があった。
「そうらしいな。」
そんな事を言っていると、背後からドイツ語で声をかけられた。
「我が社に何か用ですか?」
「えーと、貴方がカール・ベンツさんですか?」
「はい、そうですが。」
「そうですか、実はパリ万博に展示されていたガソリン車を買いたくて、ここに訪れたんですよ。」
「そうですか!…そう言う事でしたら中へどうぞ。」
工場の中には三十人ほどの作業員がいた。
その作業員達に物珍しいそうに見られながら、カールに奥の応接室に案内された。
「…すみません、ドイツでは東洋人を見ることが少ない物で、従業員達も気になってしまったのでしょう。…お詫びと言ってはなんですが、少しガソリン車の値段をまけさせて貰いますね。」
カールが申し訳なさそうに言った。
「ははは、お気になさらず。…我々も白人を見ると、あの従業員のようになってしまいますし。」
「そう言って頂けると助かります。…それでは、商談を始めましょう。」
商談は市太郎達が思っていたより早く終わった。そこで、少しだけカールと雑談をしていた。
「カールさんは何故、ガソリン車を作ろうと思ったのですか?」
「私は自転車が好きでしてね、その知識を使って自動車を作ったら出来てしまったんですよ。」
カールは笑いながらそう言った。
「自転車がお好きなんですか。…祖国に帰ったら自転車を作ろうと思っているので、完成したらお送りしても良いでしょうか?」
「ええ、むしろ嬉しいくらいですよ!」
カールは嬉しいそうな顔で言った。
「出来れば、その自転車の批評をして貰えませんか?」
「任せてください。それに、それくらいしないと申し訳ない。」
その後、暫く雑談をしてからカールの工場を後にした。
「この後はイギリスに行って、日本へ帰国ですか?」
「いや、別行動にしようと思っている。…俺と何名かは、このままオスマン帝国に向かう。」
「オスマン帝国ですか。…瀕死の病人と呼ばれているオスマン帝国に何か用事があるのですか?」
「ああ、オスマン帝国でドル箱になる物を手に入れるつもりだ。」
「ドル箱?何故、ドルなのですか?」
実はこの時代、ドルよりもポンドの方が国際通貨として、使われていたのだ。だからこそ、三宅は市太郎の発言を不思議に思ったのだ。
「深い事は気にするな、禿げるぞ。…まあ、金になる物という事だ。」
市太郎は心の中でしまったと思いつつ言った。
「そうですか。…では、私がイギリスにいきましょうか?私は会長以外では、一番流暢に英語を話せますし。」
「そうだな、三宅が一番適任だろう。…三宅はイギリスで小型のエンジンを買って来てくれ。その後は速やかに日本に帰国し、事業の準備をしといてくれ。」
「分かりました。任せてください!」
そう言って、三宅と数名の社員と別れて市太郎一行はオスマン帝国の首都イスタンブールへ向かっていた。
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