第二十話 製鉄所
1887年 (明治20年) 2月
「製鉄所を開設しようと思う。」
「まあ、良いのではないですか。…これから鉄の需要は増える一方でしょうしね。…ですが我々には技術がありませよ。」
三宅がそう言った。
「そうだ、我々には技術がない。だからまずは、小規模な製鉄所から始める。」
「なるほど、設備は日本で主流の平炉で構いませんか?」
「いや、トーマス転炉を使う。」
トーマス転炉はベッセマー転炉の欠点を無くした転炉である。
「トーマス転炉?」
「そうだ。それは、アメリカで大々的に使われているベッセマー転炉を改良した物だ。」
「分かりました。それで、どこに製鉄所を作るので?」
「製鉄所の場所は尼崎にする。」
「確かに、尼崎ならば神戸からも近く大阪へも近いですしな。」
こうして、東亜製鉄所が設立された。
一年半後
「製鉄所の運営もかなり安定して来た。製鉄事業を拡大したいと思う。」
「具体的に言いますと?」
東亜製鉄所の前田が聞いて来た。
「そうだな…転炉の数を3基から10基に増設したい。」
「かなり、大規模な製鉄所になりますな。…ですが、一つ問題がございます。」
「鉄鉱石の供給元か…」
「はい、釜石だけでは足りません。」
「…実はな、まだ発見されていない巨大な鉄鉱山を知っている。」
「何ですと!…それで、それは何処にあるんですか?」
「ブラジルだ。」
「ブラジル…そうなると南アメリカ大陸を一周しなければならないので、輸送に時間がかかり過ぎてしまうのでは?」
「何故、輸送に時間がかかるのか。…それは、中央アメリカで太平洋と大西洋が繋がっていないからだ。」
「何を当たり前のことを…」
「ならば、太平洋と大西洋をつなげて仕舞えば良い。…パナマに太平洋と大西洋を繋ぐ運河を築く。」
「…簡単に言っていますが、あのスエズ運河を建設したレセップスですらパナマ運河の建設に難航しているのですよ!…それに、今パナマ運河建設の権利があるのはフランスです。」
「フランスから権利を買って仕舞えば良い。…噂に聞けば、パナマ運河会社は倒産しかかっているらしい。…その為、フランスの政界はパナマ運河をこのまま、建設するか否かを争っている。そこに極東の小さな島国がパナマ運河会社を買収し、パナマ運河を建設すると言ったらどうなる。」
「…成功しないと思うでしょう。」
「そうだ。…フランスは俺たちに簡単にパナマ運河会社を売るだろう。そして数年後、俺達がパナマ運河建設に失敗した時に、安くパナマ運河会社を買い戻そうとするだろう。」
「確かに数年も有れば、政争のほとぼりも冷めてパナマ運河建設に反対する人は少なくなるだろうし、資金も十分集めれるでしょうしね。」
「まあ、そう言うことだ。…取り敢えずフランスからパナマ運河会社を買い取り、パナマ運河を開通させるさせて、製鉄所の規模を拡大する事を目標とする。」
「方針は理解致しました。…パナマ運河の開通は、世紀の大事業となるでしょうね。」
「そうなるだろうな。」
「…必ずや成功させましょう。」
前田は真剣な顔でそう言った。
こうして、東亜製鉄所は大きな一歩を進み始めた。
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