第十六話 待ち合わせ
1886年 (明治19年) 9月 ニューヨーク
市太郎はこの日、ある人物との待ち合わせの為、とあるカフェに訪れていた。
その人物は近い未来起こる日露戦争の立役者であり、西半球(主に南北アメリカ大陸)で最も影響力のある2つの国際銀行の1つであるクーン・ローブ金融財閥の頭取だ。
その名をジェイコブ・ヘンリー・シフと言う。
「すいません、遅れてしまって。」
そう言って40代の男性が話しかけて来た。
「いえいえ、私としては貴方にお会い出来る事自体が奇跡なので。」
そう市太郎は返事を返した。
「はは、買い被り過ぎですよ。…それで、東洋の客人が私にしたいお話とは?」
「はい、貴方達ユダヤ人がロシアで迫害されている事についてです。」
「私はユダヤ人の同胞とは強い絆を感じています。私が幼少の頃よく助けて貰いましたからね。だからこそ…1881年にロシアで起きたポグロムには強い怒りを持っています。それだけではありません、ポグロムは欧州各地に広がっていっているのです。何とかして、同胞を救いたいと思っています。」
腕を震わせながらジェイコブは言った。
「…私は近い未来、私の祖国である日本とロシアが戦争になる事を確信しております。その時に日本側の戦時国債を買って頂きたい。」
「それは私にとって、何のメリットがあるので?」
「…私はある日本政府の要人とパイプがあります。…日露戦争で勝利した暁には講和会議で、沿海州にてユダヤ人国家の設立を認めさせます。それに加えて、私が個人的にロシアからのユダヤ人救出をしようと思っております。」
ジェイコブは驚きながら市兵衛に聞いた。
「唯の実業家でしかない貴方が、何故そこまでするのですか?」
「そうですね…祖国のためです。…貴方は祖国を想うのに理由が必要だとお思いなのですか?」
「いえ、野暮なことを聞きました。…ですが、一つ条件を加えさせて頂きたい。」
「それは何でしょうか。」
「日本は現在、あの眠れる獅子と呼ばれる清と緊張状態だと聞いています。…そう遠くない内に戦争になるでしょう。その戦争に日本が勝利すると言うものです。…こう言ってはなんですが、清に勝てないのにロシアに勝つのは厳しいと思いますので。」
「分かりました。では、そうしましょう。」
そう言って、市太郎はジェイコブと強い握手を交わした。
その後、市太郎とジェイコブは共に兄弟と呼び合うほどに親しくなるのであった。
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