第十二話 交渉
1884年 (明治17年) 6月
先月ついに神戸港が完成した。
そして、完成した神戸港を政府に売ると言う手紙を出したら、政府は55万円(現代で言う209億円)で買うと言って来た。俺は少し安いと考えた為、政府に直談判しに行くつもりだ。因みに、以前の俺なら直談判なんて門前払いだったろうが、五代さんが口利きをしてくれた。五代さん様々だ。
「市太郎さん、どちらに行かれるので?」
武子が聞いて来た。
「東京だ。」
「そうですか…お気をつけて。」
「ああ。では、行ってくる。」
流石に一年もあったんだ、武子と普通に話せるようになったし、仲も良好だ。
汽車に揺られる事20時間と少し、やっと東京に到着した。
「ふぅ、長かった…」
今回の異動で新幹線の偉大さを痛感させられた。いつか、作ってやる!
そのまま、市太郎は内務省へと向かった。
此処で、首相官邸では無いのかと思われたかも知れないが、残念ながらまだ日本に国会や議院内閣制と言うものは存在しない。存在するようになるのは、いまから一年半後だ。
今あるのは太政官制で、そのトップは内務卿だ。だから、内務省へと向かっている。因みにだが、今の内務卿は山縣有朋だ。
内務省についてから少し待たされた。如何やら、予定が少し遅れているそうだ。
三十分ほど経って、やっと山縣有朋に会う事が出来た。
「すいません、待たせてしまって。…一つ前の仕事が長引いてしまって。」
「いえいえ、構いませんよ。…内務卿なのですからさぞかしお忙しいのでしょう。」
「そう言って頂けると助かりすよ。…貴方が五代さんの娘さんの婚約者ですか。…これは忠告ですがね、五代さんは娘さんの事をこれでもかと大切にしていたので、もしも愛人を作って娘さんを泣かせたら五代さんに殺さなかねませんよ。」
「…御忠告、どうもありがとうございます。」
良かったぁ、俺に愛人作る勇気なくて…。
そうして、少しばかり雑談をして山縣有朋との交渉は和やかな雰囲気のまま始まった。
「さて、山縣さんもお忙しいでしょう。なので早速、本題に入らせてもらいますよ。」
「ええ。…たしか、神戸港の買取価格を上げろと言う物でしたね。」
「はい、そうです。より、具体的に言うと55万円から65万円に上げて頂きたいのです。」
「10万円ですか…。確かに、神戸港はこの先、大阪…いや近畿にとって海外との貿易、国内での海運に役だって行くでしょう。そして、ひいてはこの国の発展にも役立つ。とは言え、65万円は高過ぎでしょう。」
「…山縣さん。この先、時が経てば経つほど神戸港の価値は高くなります。今、買わなければ今よりも遥かに高い金額で買わなければ成らなくなるのですよ?」
「それでも、高すぎる買い物は出来ない。」
「西南戦争での戦費によって、財政難なのは知っています。」
「…ええ、田中さんのおっしゃる通り、我々政府は財政難です。だからこそ、値上げは出来ない。」
「分かりました。…では、金ではなく権利を頂けませんか?」
「…一体、何の権利が欲しいので?」
「まず、京阪神地域における鉄道の敷設。次に、神戸港において鉄道の敷設の独占権、そして最後に、神戸港から大阪砲兵工廠に鉄道の線路を引かせて頂くことです。」
「つまりは、兵器工廠への資源の販売と神戸港からの貨物を全て大和川鉄道で運搬させろと言う事か。」
「ええ、この三つの権利を下さるのでしたら55万円…。いえ、50万円でお売りしましょう。」
「…」
山縣が黙った。恐らく、どちらの方が得か計算しているのだろう。
1分程してから山縣が重い口を開いた。
「…良いだろう。50万とその三つの権利で神戸港を買おう。」
「ありがとうございます。…では、一応書面にサインを。」
そうして、市太郎はほくほく顔で内務省を出て行ったのだった。
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