第十一話 押しかけ
1883年 (明治16年) 4月
「すいませーん。」
玄関から声が聞こえた。
「はーい。」
今の時刻は14:05だ。
こんな時間に誰が訪ねて来たのだろうか。聞き覚えのある声だったような…
ガラガラ
玄関を開けて外を見てみると、そこには五代さんと武子がいた。
「えっと、今日はどう言った御用で?」
「あれ?もしかして、市兵衛さんから話を聞いていないのですか。」
「ええ、全く。」
そんな事を言っていると、背後から遅れて市兵衛がやって来た。
「いや〜、すいません。お出迎えに遅れてしまって。…立ち話はなんですから、ささ家に上がって下さいな。」
「お気遣いありがとうございます。お邪魔します。」
五代さんに続いて武子が入る時に言った。
「お邪魔します。…ただいまって言った方が良かったのかな?」
お邪魔しますは聞こえたが、その後の言葉は声が小さくて聞こえ無かった。
「それで、何か私達に御用が?」
市太郎が五代に聞いた。
「市太郎さんには、武子と同居してもらおうと思いまして。」
「えっと…何故でしょう?」
市太郎は酷く困惑しながら五代に問いかけた。
「ええ、市兵衛さん曰く、市太郎さんは女性慣れしていないとお聞きして…。もし、その状態で結婚したら市太郎さんと武子が苦労するだろうと思いましてね。」
市太郎がチラッと市兵衛を見てみると、顔はぱっと見真剣そうな顔をしているが、目が完全に笑っている。
「親父、母さんは同居を許してくれたのか?」
「勿論だ。…母さんもお前が女性なれしていないのを心配してたぞ。」
「…」
終わった…まだ後、4年は独身貴族を堪能出来ると思っていたのに…
「あの…市太郎さんは私の事がお嫌いなのですか?」
武子が今にも泣き出しそうな顔で聞いて来た。
…どうする。どうすれば、同居と言う最悪の事態を回避できる…
まず、武子にお前の事が嫌いだなんて言おう物ならこれから先、俺に人権がなくなってしまうだろう。まあ、それに武子を泣かせたら俺の良心が痛むと言うのもあるが…
そうやっていろいろ考えていたら
「あの、答えないと言う事は、本当に私の事が嫌いなんですね…。」
そう言って、武子の目からつーと涙が一滴流れた。
流石に胸を痛めた市太郎が慌てて否定した。
「そ、そんな事無いよ。君の事は大好きだ。…だけど声に出すのが恥ずかしくて…」
「本当に?」
「ホントウダヨ」
「何だ…良かった!」
武子はホッとしたような顔をした後、満面の笑みを浮かべた。
市太郎は心の中で呟いた。
ああ、なんて日だ…
そうして、市太郎は武子と同居する事となった。
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