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ダンジョン行って中古屋へ帰る

作者: ヘルベチカベチベチ

 金曜といえば休みを目前に気分も上がるから、私は調子に乗ってしまい、街を出て徒歩十分のところにあるダンジョンに出かけた。そこからは見渡しても私の住む街が遠くに見えるだけ、辺り一面の砂漠にいきなりポツンとダンジョンができていて、地下に降りた階段を下って行けば薄暗い石造りの道が現れ、もし付いてくる仲間でもいればまさしく冒険者の気分を味わえたことだろう。私は一人だったがとにかくダンジョンを進んだ。

 ひび割れた頭蓋骨や天井にぶら下がるコウモリ、時にはミイラやゾンビといったモンスターとも出くわしながらも何とか事なきを得、途中で一本の鍵も拾いつつ、ついにダンジョンの最奥にまでたどり着いた。私はきっとダンジョンボスが待ち構えているのだろうと、入る前こそ緊張していたものの、部屋には誰もいなかった。また仕掛けが潜んでいるようなこともなく、ダンジョンの最奥とは一個の宝箱のみ置かれた四畳一間であった。

 残念がるようなことはなかった。というのも、私はあの日に初めて宝箱というのを目にしたせいか、あの宝箱はまったく美しかった。港に運ばれ潮を浴びたコンテナや、成金社長の隠している漆黒の金庫、そんな俗世とは切り離された輝きを放っている。本当に光っているのではないが、絵にかいたような黄色一色の閃光がはっきりと目に映るほどの輝きで、宝箱は貴重であるために一見するとむしろチープだった。私はそのチープさに却って見とれた。

 しばらく宝箱と向かい合っていると、私は一つ気づくことがあった。私は宝箱に見とれていたはずが実はそうでなく、つまり輝いていたのは宝箱に掛けられた錠前の方だったのだ。鍵穴から、フリー素材の黄色い閃光が金平糖のようにポロポロ漏れ出ている。魅入られるまま、私は鍵穴を覗き込んだ。その奥から片目は覗き返していた。

 私は声も出ず、ただ背後にのけ反って尻もちをつくしかなかった。いったい今のはなんだったのか。まさかミミックではあるまい。もしミミックならば、宝箱の中でなく鍵穴に目がついているはずがないし、なにより私が鍵穴を覗くほど近くに来たそのときに食べてしまうチャンスがあったはずだ。だがミミックでないとしても、正体は分からないまま、私は恐る恐る、再度鍵穴を覗き込んだ。すると、大中小の「C」の反転文字がたくさん並べられていた。私の目はダンジョンの暗闇に慣れていたため、視力検査の背景の白がひどく染みてたまらなかった。

 少しの休憩をとり、もう一度のぞいた時には、今度は金髪ブロンドの洋風美女がシャワーを浴びていた。画質は荒く、ヘッドの大きなシャワーや後ろに掛けられたカーテンなど、目に入るすべての物から埃のにおいがした。裸の美女はこちらを二度見する。

「Ah‼」

 自衛のため私に向けられたシャワーは、どういう訳か鍵穴から熱湯が噴き出し、覗き込んでいた目に直撃した。

 これ以上覗いても目を痛めるだけだと分かり、ほかに仕方なく鍵を錠前に差し込んで回した。すると宝箱は開錠され、中には知らないフランス映画のDVDが入っていた。帰りに中古屋へ立ち寄ると、三千円とレシートに換わった。明日は休日だった。

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