1話
俺は引きこもりである。
引きこもり歴は20年を超える、中堅の引きこもりである。
兎も角、目も当てられない、ベテランの人生脱落者となってしまった。
人生に悲観はしていない。
もはやその境地は過ぎたからだ。
今は1日1日に感謝し、怠惰に暮らしている。
日々の暮らしは、西日が差し込む時刻から始まる。
世の人の生活リズムとは逆転している。
カップ麵で胃を膨らませながら、6畳間に置かれたデスクに座る。
ネットの海を漁り、据え置きのゲーム機でゲームをしながら、スマホをいじる。
3台の文明機器を同時に扱うのは容易なことではない。
ふと時計を見ると、深夜の2時を回ったところである。
食料が丁度尽きたところだ。
コンビニにでも調達をしにいくことにしよう。
2階から階段を降りると、階下の電気はすでに消えていた。
両親とも、既に寝静まっているようだ。
引きこもりになりたての頃はよくケンカをしていたものだが、今はもうそれもなくなった。
煩わしいものだったが、今となっては寂しくも感じる。
玄関から外に出ると、夜風は刺すように冷たい。
スウェットの上からダウンを羽織ったが、服の間から隙間風のように風が入ってくる。
街灯が暗い夜道を照らしている。
コンビニはもうすぐそこだ。
国道の4車線道路に突き当たる。
信号を待つ時間が暇で、スマホでゲームを開いた。
視界の端で信号が赤から青色の点灯に変わったのを確認する。
歩き出し、3/4に差し掛かったころ、左側から車が接近してくるのがわかった。
スマホゲームの音をかき消すような重低音。車種はトラックだろう。
構わず歩いていると、止まるものと思っていたトラックはそのまま速度を緩めず直進。
そのまま俺はそのトラックに轢かれた。
とてつもなく大きな鈍器で全身を殴られたような感覚を覚えながらも、そこで意識は途切れた。