最終話 等身大の大当たり
「はあ……」
エンマ様は左手で頭を抱え、溜息を漏らした。
「とんでもない悩みの種が来たものだ。いつまで、こんな茶番を続けなければならないのか……」
愚痴るのには訳があった。エンマ様は裁判所に来た銀次に対して、全く同じセリフ、行動を繰り返し続けているからだ。それに対して、銀次も負けじと大当たりと同じ願いを繰り返し続けている。
「元気だった頃に戻してくれ」
銀次は願い通り、現世で睡眠を取っていた元気だった頃に戻り、そして急性アルコール中毒でポックリとあの世に行くという抜け出せないループの輪の中にいる。
今回の大当たりで遂に777回目。
――スリーセブンもの虚無な繰り返し。
「全く、しぶとい。少しは殊勝なことを言えば、天国モードに突入できるのに……。だが、反省の色無しでは、こちらも――」
エンマ様は閻王庁の裁判官の誇りにかけて、銀次との根競べ勝負をひたすら続けている。
銀次を駄目人間のまま、天国に行かせてなるか、との一心で――。
「では、達者で」
今回もエンマ様は根勝ちした銀次を現世に戻した。回数は遂に999回――4桁の大台目前だ。
「とうとう1000ハマり……もう限界だ! 次で天国直行のスペシャルタイムに突入させてやるか……」
エンマ様は銀次の驚異的な粘り腰に遂に根負けした。そして、1000回で心の軍資金が切れてしまったのだ。
そんな事情は露知らず、銀次はまた、閻王庁の裁判所へ導かれた。
エンマ様からしたら、もう顔も見たくないほどの駄目人間。なので、いつものセリフを別れの言葉へと変えた。
「――ヘソに玉を入れる事ができれば、大当たり、『必ず』天国行き――」
セリフを『つまり』から『必ず』へ。茶番から本番へと変更した証左だった。
その後、銀次は銀玉になり、パチンコ台の中で再現奮闘をし、ヘソの左側上で1000回目の静止状態となった。
「鬼アツだあああ――」
エンマ様の一言の変化が銀次にも何かしらの影響を受ける形になったのだろうか。最後の山場で『鉄板』から『鬼アツ』へ。
――そして……ゆっくりと左下のヘソ横の零れ穴に落ちていった。
液晶は停止状態を保っている……つまり、1000回目にして、初のハズレ――。
ハズレルートを選択してしまった銀玉は転がり落ち、盤面の最下部にあるアウト口を通り、そのまま奈落の底に堕ちていった。
「嫌だ! 助けてくれ――」
深い闇に飲み込まれていく銀次の断末魔は、暫し残響となり、闇と溶け合うように消えていった。
「パチン!」
エンマ様は指パッチンをすると、巨大パチンコ台が跡形も無く消え去った。裁判所は初めからエンマ様以外、誰も存在していなかったかのような静寂に包まれていた。
「結局のところ、銀次は999回、大当たりでは無く、意味を成さない小当たりを引き続ける形になってしまったな……。そして、1000ハマり……。奴は現世でもあの世でも等身大の大当たりを引けず仕舞いか……」
エンマ様は巨大パチンコ台のあった場所を哀れみながら一瞥した。そして、すぐにテーブルの上に置いてある、次に裁判を受ける魂の資料を手に取り、急いで目を通していった。
一つ前の駄目人間が大ハマりしたせいで、時間が立て込んでしまったといわんばかりに。
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