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第二話 銀玉

 足元すら定かでない暗闇の中、銀次は自我を持たずに歩き続けていた。それは誰かに誘導されるように。


 銀次は傀儡(かいらい)そのものだった。糸で操作され、誰かが設定した目的地へと進むだけの。



 銀次がハッと意識を取り戻すと、立っていたのは、銀次にとって当然足を踏み入れたことのない場所――証言台の前だった。


「何故、こんな所に?」


 困惑しながら、銀次は周りをキョロキョロ見渡した。


 目に映る景色から、テレビで見るような裁判所の中に自身がいることは理解した。証言台も至って普通。


 だが、理解の範囲外な点があった。それはやたらと馬鹿でかいサイズで構成されていた裁判所という点だった。建物の横も後ろも天井も数キロ先なほどに。


 それもそのはず。ここは銀次の遥か前方にいる、超高層ビル以上の身長がある超大男のサイズに合わせた場所なのだ。


 超大男は巨大な木製の机に両肘を乗せて、巨大椅子に座していた。


 銀次が前方を見上げ、その超大男の存在に気付くと、

「うわっ! でけえ、巨人族だ!」

 と慌てふためき、腰を抜かした。


「馬鹿たれ、(わし)はエンマだ!」


 取り乱した銀次を、超大男――エンマ様は叱責した。


「へ? エンマ様? じゃあ、ここってあの世なの?」


 平静を取り戻した銀次は、エンマ様に尋ねた。


「そうだ。お前はウイスキーのがぶ飲みで急性アルコール中毒になってしまい、そのままぽっくりと、な」


「マジかよ……。それにしても、エンマ様って想像通りのデカさだけど、見た目は普通の人間なんっスね。服も黒のスーツだし」


「それは、ここに訪れる魂は人間ばかりなのだから、こっちも見た目を合わせてな。この服は裁判官の法服(ほうふく)ってヤツを死神達にオーダーメイトして作らせたのだ」


「へえ、死神もいるんっスね」


「当然だ。流石に儂一人では、閻王庁(えんおうちょう)の全ての業務をこなせないからな。――それでは、そろそろ本題に入るとするか」


 エンマ様は表情を締め直した。


「お前がここに呼ばれたのは、裁判にかけるためだ。天国か地獄か、のな」


「ええ、マジか……。地獄はヤダな……」


「お前はひたすら怠惰(たいだ)で在り続けた。だが、人を陥れる悪事は働いておらん。よって判決は――」


「判決は?」


「このイベントの結果次第だ!」


 エンマ様は高々と右腕を上げ、指パッチンをした。すると、エンマ様と銀次の中間地点の上空に円形の異空間ができ、そこから巨大物体が落ちてきた。


「ガッシャーン」


 M5ほどの地震のような巨大物体の落下衝撃。銀次はそれにたじろぎながらも、巨大物体の正体を確認した。


 百メートル以上の高さがある長方体の台枠。大きさは数百倍だが、銀次にとっては見慣れた物だった。銀次はノーシンキングタイムで結論を出した。


「これって、パチンコ台だよな……」


「ご明察! 盤面中央下のヘソに玉を入れたら液晶が始動する、所謂(いわゆる)デジパチという代物だ。因みにイベント設定として、確率は一分の一……つまり、ヘソに玉を入れることができれば、大当たり。天国行きだ。――逆に入れることができなければ……もうお分かりだろう?」


 エンマ様は口元を歪ませ、含み笑いをした。


「まあ、何とかなるでしょ」


 銀次はエンマ様の表情の変遷(へんせん)など気にも留めず、安堵感に包まれた表情で答えた。


 四円パチンコなら、千円で二十回はヘソに玉を入れられる。デジパチを一回転させることなんて容易い、と経験則で判断したためだ。



 ――だが……。


「ああ、言い忘れていたけど、玉は一球のみだからな」


「い、一球のみ⁉」


「そして玉は……お前自身だ!」


 エンマ様はドーンと右手の人差し指を銀次に向けて突き出した。笑えない条件を迫られたマンの銀次は、ただ狼狽えるのみだった。


 銀次は数分間逡巡(しゅんじゅん)した。



 そして、呟いた。


「はあ、マジか……。やるしかねえか……」


 天国行きへ、他に選択肢があるとは到底思えない。銀次は覚悟を決めるしかなかった。

 銀次は台を睨みつけた。――自身をチップにする覚悟はできたぞと言わんばかりに。


「それでは遊技開始するか。――ああ、台選択を忘れていた。どの台にしようか……。水着姿の美女達が魚の群れを誘惑する台か、屈強な漢達が血と汗まみれで戦う台か、それとも――」


「何でもいいよ、そんなの!」


「分かった。やはりここは儂のお気に……いや、ピンのパチプロといった一匹狼に相応しい台にするか。――金色(こんじき)になるのだ!」


 エンマ様は右腕を銀次や台のある前方に向けて指パッチンした。すると、台がエンマ様の好きそうな版権物に様変わりした。


 続けざまに指をならすと、今度は銀次がパチンコ台の射出口(しゃしゅつぐち)に瞬間移動した。


 更にならすと、銀次は直径170センチの等身大パチンコ玉へと変化した。


 余りの手際の良さに、

「流石はエンマ様。恐るべき凄腕、プロの技だな」

 と銀次はただ感心するだけだった。


「ストロークはヘソに入りやすいように調整してやるからな。じゃあ、精々頑張れよ」


 エンマ様はやや加減した指パッチンで、銀次なる玉――『銀玉』を発射させた。



 銀玉の大当たりへの道が今始まった――。



読んでいただき、本当に有難うございます。


よろしければ、小説の感想を頂けると幸いです。


もし、面白いなと思ってくださったなら、ブックマークしてくれるとうれしいです。

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