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一幕、尾崎麻衣と言う人物①

小説家になろうの皆様、ご無沙汰しております。

今回は、色々初挑戦の書き方をしている小説を、まったりと気が向いたら更新します。笑


書き始めてまだ、簡潔する気配が全くないのですが、平成という時代を感じて頂けたらと思います。


現代とは言いがたい、ケド、歴史と言うには新しい、そんな時代のお話。

まったりお付き合いくださると嬉しいです。

 二〇〇一年(平成十三年)、四月。

 ファッションや言葉の流行を生み出してきたギャルたち。そんなギャルの道に、一人の女子高生がまた、足を踏み入れた。


「ん、よしっ!」


 姿鏡に映った真新しい制服姿の自分を見て、満足げに頷いている彼女。彼女の名を、()(ざき)()()と言う。


 麻衣の学校の制服はブレザーだ。そのブレザーのスカートを膝上に切り、足下にはギャルの象徴である、ルーズソックスをはいている。髪の毛は春休み中に自分でかけたゆるめのパーマで、色も自分で行ったブリーチのせいで所々まだらに金髪になっている。そんな髪の毛をゆるめに二つに縛る。

 メイクは目元のメイクにかなり時間をかけて完成した。つけまつげにアイライン、マスカラで、ブラウンのアイシャドウは色白の麻衣に良く映えている。ナチュラルメイクとはいかないものの、幼さの残るその顔に、ギャルメイクが良く似合っていた。


「麻衣ー? 朝食、冷めるわよー?」

「はーい!」


 階下から麻衣に声をかけてきたのは母親である。

 今日は高校の入学式。激しい受験戦争の後に勝ち取ったこの女子高生と言うポジションに、今日ばかりは気合いが入るというものだ。麻衣は階下へと返事をすると、ぺちゃんこの鞄を持って部屋を出た。

 リビングへ向かうと、新聞を広げていた父親がチラリと麻衣を見て、眉根を寄せた。


「麻衣……、スカートはもう少し長くはならないのか?」

「んー? 切っちゃったから無理!」

「切っちゃったかぁ……」


 麻衣の言葉に父親は軽く頭を抱えている。


「姉ちゃん、顔、怖い……」

(ゆう)()~? そう言うこと言ってると、食べちゃうぞ?」


 麻衣は五歳下の弟、雄太へ両手を挙げて、威嚇のポーズをする。


「はいはい、二人とも。じゃれてないで早く食べちゃって」


 母親に言われた麻衣は雄太の前の席へと座ると、用意して貰った朝食を食べる。キッチンでは母親がせわしなく動いていた。


(お母さんって、朝から大変なんだなぁ……)


 麻衣はそんなことを漠然と思いながら、朝食を平らげていくのだった。


()(おり)! おはよー!」

「おはよ……」

「香織、気合い、入ってんねー?」

「もち、あたぼーよ」


 麻衣と挨拶を交わしながら、ガッツポーズをしている彼女の名前は西(にし)(むら)()(おり)と言う。麻衣とは小学校からの幼なじみだ。

 彼女は麻衣と同じ制服を校則に則って着ている。足下は麻衣とは違って黒のタイツで決めている。メイクは麻衣ほど濃くはないが、鎖骨の辺りまで伸びた黒髪は毛先がスカスカになるまですいている。更にストレートパーマとヘアアイロンでツンツンになっている。香織が麻衣とは違うギャルであることは一目瞭然であった。


「まいまいも、気合い、入ってるね……」

「当たり前! 舐められてたまるかっ! ってね」


 麻衣はキシシ、と笑う。

 二人の異なるギャルは、他愛ない会話をしながら学校への道を歩いて行く。片側二車線の広い県道の中央分離帯は緑に覆われている。車通りの多いこの道を、少女たちは歩いて行った。

 すると突然、香織が中央分離帯の緑を指さして立ち止まった。


「あそこ、猫……」

「ねこぉ~?」


 ほら、と香織が指さす先を見てみると、中央分離帯で立ち往生している黒猫の姿があった。


「ちょっと、何してるの? あの子……」

「渡れない、のかも……」


 黒猫はキョロキョロと顔を巡らしては道路を渡るタイミングを計っているようだ。しかし途切れることを知らない車の往来に、完全にそのタイミングを失っている。


「まいまい……」

「わーかった! そんな目で見ないで!」


 香織の何かを訴えるような視線を受けて、麻衣は肩にかけていたぺちゃんこの鞄を歩道へと投げ出すと、


「香織、鞄、よろ!」

「うん……」


 香織に荷物番を頼んだ麻衣は、前を見て車の途切れるタイミングを見計らう。しばらくじっと車の往来を眺めていた麻衣は、


(今だ!)


 そうして車道へと飛び出した。

 一気に中央分離帯まで駆け寄ると、素早い動きで黒猫を抱きかかえる。それから一度チラリと車が来ていないことを確認してから歩道へと戻ってくる。そんな麻衣の一連の動きを見ていた香織が拍手を送る。


「おー……。さすが体育5のまいまい……」

「任せて! それよりも……、この子、大丈夫? やけにおとなしいんだけど」


 麻衣の胸の中にいる黒猫は車の往来が相当怖かったのか、ブルブルと震えている。


「お前、助かったよ……」


 香織が両手を伸ばし、黒猫の両手をひょいっと持ち上げると万歳の格好をさせる。しかし黒猫に抵抗する様子は見られず、香織にされるがままだ。


「まいまい……、この子、完全に茫然自失ってヤツみたい……」

「おーい、猫ー?」


 麻衣に呼びかけられた黒猫がビクッと身体を震わせた。それから香織の手から自身の両手を降ろすと、じっと麻衣の顔を見つめる。


「人、間……?」


 その時、麻衣の頭の中で少年のもののような声が響いた。その声を聞いた麻衣に驚いた様子は見られない。慣れた様子で黒猫をゆっくりと歩道に降ろすと、


「もうあんな危ないところ、渡っちゃダメだかんね!」


 黒猫の前に人差し指を突きつけると、麻衣ははっきりとした口調でそう言った。


「大変! 香織! 遅刻!」

「え……?」


 麻衣はストラップがじゃらじゃらと付いている重そうな携帯電話を取り出すと、その画面を見て慌てた。白黒の液晶画面の数字は、間もなく入学式が始まることを告げていた。


「ヤバイ……」

「走るよ! ほら! ダッシュ、ダッシュ!」


 二人は黒猫へと背を向けると、駆け足で学校へと走っていく。黒猫はそんな二人の背中をじっと、黄色の瞳で見送るのだった。


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