OL小杉野呑み語り。3
或る日の飲み屋でのこと。
「呑みに行くかー!!」
古谷部長の宣言が、オフィス内に響いた。
大衆居酒屋「いつもんとこ」。
古谷部長行きつけのお店の個室席で、畳の上のちゃぶ台を四人で囲む。
「えーっとそんじゃ、改めて自己紹介するか。」
向かいに座る古谷部長がそう言い、隣りの滝沢君がうんうんと頷く。
「俺は古谷薫。ウチこと開発部の部長を務めていて、ウチの部唯一の既婚者さ。
ちなみに、二児のパパだよ。」
サラッとリア充宣言(文句なしにウザイ)をしつつ、簡潔に説明する古谷部長。
彼の机にある家族写真は偶に目にするけど、いつ見ても奥さんが綺麗なんだよなー。
時々腹黒な部長には勿体ないぐらいだ。
「僕は滝沢慎。開発部制作第二課課長を務めてます。仕事がなければ唯の陰キャヲタクだよ。よろしくー。」
こちらも簡潔に重要なところだけを告げる滝沢君。
それぐらいしか言えないのかな?
そんな事を考えてた時期がありました。
「私は小杉愛梨。開発部制作第一課課長って立ち位置だよ。滝沢君と同じく、唯のヲタク。」
いざ私の番になると、私も言うことがなくなっていった。
「…あはい、よろしくお願いします。 なんと言うか、皆さんキャラが濃いですね。」
上条さんがほんのちょっとだけだが引いてる。
まぁ、わからんことも無い。私もそうだったからね。
そんな時に、個室の襖が開かれて、女給さんが入ってきた。
「お冷とおしぼりです。ご注文お決まりでしたらお伺いしますが。」
「とりあえず飲み物だけ頼んどくか。皆何にする?」
古谷部長が尋ねる。
「僕生で。」
「私も生。」
「…では、私も。」
全員生ビールだったが、上条さんは次から次へと入ってきた情報の対処が精一杯で考える時間がなかったのだろう。
「それじゃあ生3つと、あと烏龍茶1つ。」
「畏まりました。」
一礼して個室を出ていく女給さん。
「…あれ、部長は生ではないのですか?」
「あぁ、古谷さんは飲めないんだよ。」
「そういや言ってなかったね。」
呑みに行くかー!!って張り切ってたくせに、本人がこれだよ。まぁそりゃは?ってなるか。
「アルコールのあの苦味がどうしてもね。」
「…はぁ。」
ため息混じりの、若干の納得と言った感じだろう。
まぁここも、個性的自己紹介と共になんとかまとめてもらおう。
それから暫く、私たちは会社のどうこうを話してた。ちゃぶ台の上には、各々の飲み物と、飲み物が来た時に頼んだ冷奴やらキムチやらが並んでいた。
「そんでさ、マフィアにビビった取引会社の社長とその付き添いの人がコッチの都合のいいように全部回してくれてさ!すっごい青ざめた顔で「大切な取引先ですので…。」って言って、お陰で収入の7割をウチに回すルートが完成したんだとよ!」
烏龍茶で酔ったような態度になった古谷部長がそんな事を喋っている。
「あの、そのマフィアさん(?)という人は?」
「あぁ、ウチの部にいる阿久津さんのことだよ。見た目がマフィアみたいだったから、ウチでは「阿久津マフィア」って名前で通ってるんだ。」
対象に生でも酔った気配がない滝沢君が、冷静に語る。
「はぁ…。」とか「へぇ…。」とか、上条さんは全くついていけないと言った感じでそんな返事を漏らす。
まぁそうなるよね。
「あ、ちょっとトイレ。」
「僕も」
あら、二人だけだよ気まずい。
「あーえっと、今のうちに頭の整理しときな。多分まだじゃんじゃん情報入ってくるから。」
特に話題が思いつかなかったが、何とかフォローの言葉(?)を絞り出せた。気がする。
「…はい、ありがとうございます。皆さんキャラが濃いので。」
結構リアクションが硬いな。もうちょいフランクに話せないかな…?
「莉奈ちゃん、って呼んでいい?」
「どうぞ。では私も小杉さんでいいですか?」
「ってか、愛梨でいいよ。」
「では、そうさせて頂きます。」
ダメだ。まだ硬い。なんかこう、つい話し方が崩れる方法ないかな?
なんて考えてたけど、あったよ。莉奈ちゃんと会った時から気になってたこと。自爆技になるけど…。
「莉奈ちゃんさ、その、結構大きいよね、胸。」
「はい、言われますね。」
ちびりちびりと生ビールを呑んでた彼女が、ホント若干顔を赤らめながら言った。
「サイズってどれぐらい?」
「えっと、確かそろそろEだったと…」
「は!?ってことはD!?」
おいおい嘘だろ。そろそろEって。
「何食べたらそんな大きくなんの?私未だにAなんだけど…」
「特別なことは何も。放っておいたら勝手に大きくなったので。」
「…何それぇ。半分よこせェ」
酔った勢いでそんな事を言ってしまったが、1度アルコールが回ったらもう止まらない。
「んだよDカップってけしからんもうちょい小ぶりにならんのかそんなんだからうんぬん…」
と、見るからに制御不能であった。
「ただいま。ちょっと遅く…なにしてんの?」
襖を開けて帰ってきた滝沢君と古谷部長が、2人して困惑してた。
まぁそりゃそうか。
酔った勢いで制御不能になった私が議論を続けていくうちに、彼女を壁際まで追いやっている状態。なんなら壁ドンもしてる。
「まぁまぁ落ち着きな。」
生と日本酒をたらふく呑んだはずなのに未だ酔った様子のない滝沢君が、私を莉奈ちゃんから引き剥がす。
「聞いてよ滝沢ぁ。莉奈コイツDカップなんだぞぉ。けしからんとか思わねぇ?」
「ちょっ…」
「何言ってるんですかっっ!!??」
古谷部長の制止と莉奈ちゃんの驚愕が重なって聞こえるが、何度も言うけどコッチは酔ってるのでね。止めようが無い。
「ふむ。」
すると滝沢君が例のあのポーズをとった。エヴァン〇リオンの意気地無し14歳の父親の例のポーズ。滝沢君のヲタクモードMK語リスト。
「そうだな、まず容姿はいい。白過ぎず黒過ぎずの大和撫子な肌の色に黒髪のショートボブ。唯一の難点は毛先の赤紫だな。ここは全部黒が良かった。服装は満点と言っていいだろう。グレーのパンツスーツにベージュのカーディガンというカラーのチョイスは特に賞賛に値する。パンツスーツと聞くと、主流なのは矢張り黒だが、グレーにすることでいい具合に輪郭にモヤが掛かり、存在感が安定している。アドバイスをするなら、小杉さんのような楕円眼鏡をかけることだろう。それにより、シュッとした顔の輪郭が若干丸くなりあどけなさが顔を見せるだろう。」
「ちょいちょい、お二人さん?」
その後、ヲタトークをしていた私達を止めるため、古谷部長が苦労したのは言うまでもないだろう。
最近強炭酸水の美味しさに目覚め、父さんとたらふく飲んでる中坊。unknownです。(さんだよが昇格する日は来るのか?)
ついにノルマの短編三本目、そして呑み回でした。如何でしか?
夏休みの課題「短編三本投稿」というノルマを達成したので、一応一区切りに至りました。
もう終わりかな?と思ってたのですが、案外楽しかったので続けようかなと思います。
なんなら短編じゃなくて不定期で連載にしようかな?なんて。
えっとですね。前回の後書きで「主要キャラは出し切った」みたいな事言ってましたが、次から次えと新しいキャラが浮かんでいます。どうしょう。
その一例が、チラッと登場した「阿久津マフィア」です。まだ容姿は出してませんが、連載が始まったら出そうかなと思います。
謝辞です。
中坊が小卒の語彙力でノコノコこの業界に入ってきましたが、僕の作品を読んでくださってありがとうございます。
連載もやってみようと思うので、そっちでも僕と小杉達をよろしくお願いします。
それでは、サラダバー。