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最初の夜、頭をよぎった疑念

 本作のタイトルを変更し、『ロクデナシ神父のアポスタシー 〜勇者パーティ加入拒否!最初の村で勇者の活躍を見守ります〜』としました。

 急な変更で読者の皆様にはご迷惑をおかけいたしましたが、これからも拙作をどうかよろしくお願い申し上げます。

 夜はすっかり更け、忙しかった1日もようやくお終い。戸締りを終えた俺たちは居間に集まった。

 テーブルを囲んでお茶を飲み、まったりと就寝前のひと時を過ごしているのだ。

 ノエルとアルシエ様は先程の戸締りについて会話をしていた。


「礼拝堂、玄関、裏口、各窓の戸締りと火の用心。……なるほど、覚えました。明日からは私も手伝います」

「ありがとうございます。助かります」

「同居人として当然のことです」


 アルシエ様はサラッとそう言って紅茶を一口飲んだ。

 

「そうだ、兄さん」


 ノエルがふと話しかけてきた。


「昼過ぎに買い物に行ったら、テッド君が勇者だって村のみんなが知ってましたよ。凄いですよね〜、噂が広まるスピードって。兄さんは誰にも言ってないんでしょ?」


 俺は首肯した。仮にも神父なので、信者の個人情報は組織外の人間には漏らさないように気をつけてはいる。


「もちろん。――多分テッド君が自分で自慢して回ったんだろ? 昨日の時点でテッド君が【祝福ギフト】を得たことは村じゅうに知れ渡っていたんだし、話は早いだろうさ」

「おばさまたちや、友達のみんなに詰め寄られて大変でしたよ。『テッドが勇者様になったって本当?』とか、『お兄さんはなんとおっしゃったの?』とか、もう大混乱。村長が来て、『明日、集会を開く』と触れ回ってくれたから助かりました」


 話を聞くに、かなりの騒動だったようだ。とりあえず、ノエルに怪我がなくて良かった。


「それは大変だったな、お疲れ様。――それじゃあ、明日の集会には俺も参加するか。今後の対応についても村長と話し合いたいし、丁度いい」

「そうですね、私も行きます。……あれ? 教会とかからの使者様が来るまで、あんまり時間が無いんですよね? アルシエ様、いつ頃着きそうとか分かりますか?」


 ノエルが首を傾げて尋ねると、アルシエ様は「ええ」と頷いた。


「部下から連絡が入ってます。国と教会の使者一行は昼過ぎにジキの町に到着したそうですよ。ですから、この村に着くのは明後日といったところでしょうね」

「「明後日!?」」


 二人して声が裏返ってしまった。

 ジキの町はノール村の南方にある町だ。農業が盛んな辺鄙な田舎町である。


きゅうすぎませんか? アルシエ様、スケジュールには余裕を持たせてください。お出迎えの準備が何も出来ませんよ」

「もうムリです。マトモな応対は諦めるしかありませんね。仕方ありません、長居されたら困りますし、使者の皆さんには、速やかにテッド君を引き渡して、とっととお帰りいただきましょう。それしかありません」


 俺たちが恨みがましい目で見つめると、アルシエ様はバツが悪そうに口を開いた。

 

「……当初の予定では、勇者になったばかりでサリィが混乱している内に、国なり教会なりの手でカイン共々ノール村から引き離してもらうつもりだったのです。あんまり時間を空けて冷静になったりしたら、魔族との戦いに怖気付いて逃げ出す可能性もありますからね。……それに、恋人が別れを嫌がり、良からぬ事をしでかすかもしれません。全員に考える時間を与えたくなかったのです……」

「それは……そうかもしれませんが……」

「うむむ、反論しづらいです……」


 確かにアルシエ様の言う通りだ。ダン君はどうだか分からないが、ノエルは間違いなく暴走するだろう。そういうだ。

 

「……まさか今さら使者たちを夢の世界に呼んで、『ノール村の村長が、あなたたちを出迎える準備が間に合わないとボヤいていたので、ゆっくりと来なさい。具体的には5日後くらいに』などとは言えないでしょう? わたしの威厳が損なわれてしまいます」


 アルシエ様は気まずそうにソッポを向いた。

 もしそんな神託が下ったら、使者様たちも困惑するだろうな。

 女神様がたかが田舎村の村長ごときのボヤきを聞いてスケジュール調整に奔走するなんてあり得ない。目が覚めたら、まず最初に自分たちの正気を疑うだろう。


「……まあ、しょうがないですね。当日になって使者様がご到着されたら、せいぜい泡を食って饗応することにします」

「頑張ってください。私はリビングのソファーに座りながら応援しています」


 結局は出たとこ勝負か。しばらく忙しい日が続くなぁ……。




「さて、そろそろ眠りましょうか。明日も色々とありそうですし、私もこれからやる事があります」


 アルシエ様はクイッと紅茶を飲み干し、おもむろに立ち上がって伸びをした。


「やる事ですか?」


 ノエルがきょとんとした顔をしている。


「こちらに向かっている使者一行や、国王やら教皇に神託を下さないといけないのです。その……勇者のお供について……」

「ブホォ!? ゲホッ、ゴホッ、お、俺?」


 思わぬ発言にむせてしまった。紅茶が逆流して鼻が痛い。


「ちょっ、大丈夫ですか、兄さん!? ――アルシエ様、酷い! やっぱり兄さんのことを諦めてなかったのですね!」


 キィーっと犬歯を剥き出しにして食ってかかるノエルを、アルシエ様はどうどうと宥めている。


「落ち着いてください、ノエル。誤解です。私はもうカインの事は色んな意味で諦めてますよ」

 

 ……言われるだけの事をした自覚はある。黙ってアルシエ様の話を聴こう。


「実は、国王や教皇には以前、『ノール村にて勇者が誕生すること』と、『勇者の旅の供が一人いること』を伝えたのです。ですから、使者たちはこの村に勇者とその仲間を迎えに来ているのです。ですが、カインがこの有り様ですので、辻褄合わせをしないといけません。そのために今晩、関係者を夢の世界に招いて、事情を説明する必要があるのです」

「はぁ、なるほど」


 確かにそれは解決すべき問題だ。

 ノエルも納得したらしく、顔つきから険が取れた。


「あー、それは何とかしないといけませんね。エアリス教の大前提として、()()()()()()()()()()()()()。これが揺らぐと、ウチの教団も大打撃です」


 そう、その通りだ。女神シュール・エアラ様は唯一絶対の神(実際に会話しているとそうは思えないが)である。

 その神託に間違いがあるなど、決して認められる事ではない。


「……でもアルシエ様、いったいどうするんですか? 俺以外に誰か適任者がこの村に居るのですか? ……サリィちゃんやノエルは無しですよ?」


 アルシエ様は呆れた様子で首を横に振った。


「そんな人選はしませんよ。第一、あなたたちが納得しないでしょう? ――安心してください。私の部下を使います。……そうですね、筋書きはこうです。『ある日、わたしの神託を受けた勇者の仲間――テッドの望みを叶えるのは癪ですが、美少女を選びましょう。彼女は勇者と合流するために一人でノール村を目指していた。しかし、運悪く魔族と遭遇、力及ばす魔族の砦に攫われてしまった』――これでどうですか?」


 アルシエ様はウンウンと得意げに頷いている。


「えっと……確かにこのシナリオなら、“勇者の仲間”は女神様の神託通りにノール村で合流するはずだったのに、魔族のせいで邪魔された形になるので、アルシエ様の説明次第で誤魔化せると思います。誰も女神様に対して正面切って『話が違う』なんて言わないでしょうし」


 だが、このシナリオ通りに物事を進めるのは不可能だ。

 ノエルもそれに気がついたらしく、アルシエ様に疑問を投げかけていた。


「あの、アルシエ様? その……お仲間役の部下の方はどうやって魔族の砦に攫われた事にするのですか?」


 そう、この計画には魔族が組み込まれている。しかも、この後直ぐに神託を下すということは、時間的にもう、その美少女とやらは攫われていないといけない。

 今からではどうやっても間に合わないのだ。


「あっ、もしかして、攫われた時点で魔族に殺された事にして、死体は見つからなかったという感じにするんですか? それなら辻褄が――」

「いえ、違いますよ?」


 俺もノエルと同じ考えだったが、アルシエ様は首を振って否定した。


「ちゃんと砦にいてもらいます。私としても部下を勇者パーティに紛れ込ませる良いチャンスですから、テッドには彼女を救出してもらいましょう」

「えっ、でも……それだと、砦にいつのまにか見知らぬ女の子がいることになりませんか?」

「そこら辺は……まあ……なんとでもなります。それよりも、これで私の息が掛かったものに勇者の行動を誘導させることができます。……本当なら、こんな裏から糸で操るような真似はしたくないのですが、あの勇者は信用なりません。少しくらい手綱を握らないとどこまでも暴走して、真っ当な旅すら覚束なくなりそうで……」


 アルシエ様は額に手を当て、深いため息をついた。


「……」


 なんだろう? 気持ち悪い違和感を感じる。アルシエ様は、こんな穴だらけな計画で大丈夫だと本当に思っているのだろうか?

 正直、サリィちゃんに魔物をけしかけた時以上に杜撰だ。あれも不確定要素を考慮していない(だからこそ俺が介入できた)計画だったが、今回のこれは――。


「アルシエ様、やっぱり無理が――」

「大丈夫です」


 アルシエ様はガンとして譲らない。


「いえ、でも、もし仮に全て上手くいくとしたら、()()()()()()()()()()()――」

「カイン」

「ーッ!?」


 アルシエ様は手のひらを前に突き出して俺の言葉を遮った。有無を言わせない、厳粛な顔つきである。

 俺は思わず息を呑んでしまう。


()()()()()()()()()()()()()()()()。……二人とも明日もやる事が沢山あるでしょう? この件は私に任せて、早く寝なさい」


 バッサリと断ずるような口調だ。どうやらこれは決定事項のようだ。取り付く島もない。

 俺とノエルはチラッと目線を交差させると、不承不承ではあるが、大人しく頷いた。


「……アルシエ様がそうおっしゃるなら。……おやすみなさい」

「……おやすみなさい、アルシエ様。……明日の朝食は私が作りますからね」


 アルシエ様はクスッと笑って、俺たちに軽く手を振った。


「わかりました。楽しみにしてますね。――それではおやすみなさい。いい夢を」




「……」


 俺はベッドの中で目を閉じ、先程の事を考えていた。

 間違いなくアルシエ様は何かを隠している。

 思えば、今日一日アルシエ様と過ごして疑問に感じた事も多数ある。

 ぼんやりと薄れていく意識の中、ふとした疑問が頭をよぎった。


(アルシエ様は本当にシュール・エアラ様なのだろうか? 神様というには、あまりにも……そうだ、()()()()()()。 見た目通りの少女のように笑って、怒って。……どこか寂しそうで。いったい彼女は……何者……なん……だろう……)


 俺は釈然としない思いを抱えながら眠りにつく。

 こうして、アルシエ様と暮らす最初の日が終わった。

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