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「レザード・ウル・ヴァリアント⑤」

 さて、見事強盗団『カリンガの夜鷲よわし』を掃討し、レイミアを救出することに成功した俺たちだが、実は終わってからの方が大変だった。

 逮捕した強盗団の護送、負傷者の応急手当、腹が減っただの寒いだの親に会いたいだのと泣き叫ぶ子供たちの世話。


 アリア嬢にロレッタ嬢、ディアナにアレクにパーシア。

 すべてが終わった時には、皆がっくりとその場に倒れ込むようにしていた。


 俺に関しては、それからも続きがあった。

 なんといっても勝手に王国兵を動かしたこと。軍船を徴発し、『カリンガの夜鷲』と事を構えたことが問題となった。

 第一王子であるとはいえ俺はまだ軍属ではなく、王族の権威を振りかざした言うならば越権行為であり、国王始め各方面から徹底的に絞られた。

 最も今回の場合は事が事であり、誘拐された子女たちの親(ほとんどが貴族や高位の軍属)たちの嘆願があったため処罰されることこそ無かったが、数十枚に及ぶ反省書を書かされた。


 ようやく自由になったのは事件から三日後のこと。 

 その日はレイミアが退院予定だということで、病院の待合室に向かったのだが……。




「レザード殿下。顔色が悪いですわよ。青を通り越して土気色と言いますか……」


 ロレッタ嬢は、俺の顔を見るなり心配そうにたずねて来た。


「やはり例の船の件ですか?」


「お察しの通りだ。第一王子なんて言ってもまだまだ子供で、実際のところ何の権限があるわけでもないからな。将来性を担保に行為を強制させれば、それなりにつつかれもするというわけだ」


 ぐったりと椅子に座り込む俺を、興味深げに眺めるアレクは……。


「兄貴も大変だなあー」などと、能天気に言った。

 

「……おまえにもそのうちわかる。今から覚悟しておけよ」 


 自分には無関係とでもいうかのようなアレクに釘を刺すと、ディアナが傍に寄って来た。

 

「殿下。あの女はここにいてもいいんですか?」


 こそこそと耳元で囁いたのは、あの女──パーシアのことだろう。

 俺たちいつもの面子にしれっとした顔で混じっているが……。

 

「聞こえてますよ、ディアナ様。もう、あまり冷たいことを言わないでください。わたしとあなた、一度は志を共にした仲間ではございませんか?」


「うっ……き、聞こえてましたの……」


 バツが悪そうにするディアナはさておき、俺はパーシアに向き直った。


「意外だな、おまえがここへ来るなんて」

 

「あら、そうですか? 昨日の敵は今日の友とも申しますし、別に意外なこととは思いませんけど」


「いくらなんでも掌返しが早すぎるだろう。つい先日までは対抗意識を燃やしてバチバチにやり合っていたのに」


「わたし、過去のことは振り返らない主義なんです」


 いくら冷たく突き放しても、一切動じずニコニコ、ニコニコ。

 こいつ、ここまで面の皮の厚い奴だったのか……。 

 

「それにもう、アリア様には友人と認めてもらいましたしね」


「アリア嬢が、君を……?」


「ええ、それはもう。もはや親友といっても過言ではないぐらいの間柄なんですよ」


『なっ……!?』


 俺たちは驚き、ざわついた。


 たしかにあの日、パーシアとアリア嬢は共同戦線を張っていた。

 迅速に強盗団の居場所を特定し、事件を早期解決に導いた。

 それまでのいがみ合いが嘘みたいなコンビネーションにはたしかに驚かされたものだが、いくらなんでも……。


「あ、あ、あ、アリア様がこの女を……? しかも親友だなんて、まさかそんな……ももももしかしてわたしよりも上の扱い……っ?」


「落ち着け、ロレッタ嬢。あくまでこいつ個人の見解だ」


 瞬時に壊れかけたロレッタ嬢をなんとか正気に戻そうとしていると、ジェーンがやれやれとばかりにため息をついた。 


「……ホント、あいつって人気よね。わたしと何が違うのかしら……。顔は負けてないつもりなんだけどなあー……」


 ぶつぶつと黒いことをつぶやくパーシアの横顔は、妙に大人びて見える。

 ここではない別の国で暮らしてきたような、そこで多くの経験を積んできたとでもいうような、アリア嬢が醸し出す雰囲気に近いものを感じる。


 もちろんそんなこと、あるわけないのだが……。

 

「まあともかく、そうゆーわけでっ」


 パーシアは、一転笑顔になると、ぱちんと手を打ち合わせた。


「わたしはアリア様と、そして公的にもみそぎを済ませまたんです。皆様とも今後は、より親密な関係を築かせていただきたいと思っているんですが、よろしいですか?」


 パーシアの言葉に、俺は首を傾げた。


「禊とはなんのことだ? ロレッタ嬢」


「ええとですね……」


 復活したロレッタ嬢によるならば、パーシアは星月祭せいげつさいでの敗北の責任をとる形で自らの派閥を解体、さらに各方面に迷惑をかけたと謝罪し、街路の清掃や孤児院訪問などの慈善活動に打ち込んでいるところなのだという。


「なんだ、ずいぶんと潔いのだな。てっきりもう少し悪あがきするものだと思っていたが」


「しかたないですね。そうでもしないと、わたしが皆様にかけたご迷惑の償いにはなりませんから。……まあおかげさまで、今日も今日とてガッツリ筋肉痛なんですけどね……」


 よく見ると、パーシアの足はぷるぷると震えている。


「……なるほどな」


 どうやら慈善活動の件は嘘ではなさそうだ。

 俺たちと仲良くしたいというのも本当。

 寄らば大樹の影という発想だろうが、敵対する理由は特に無い。

 今すぐ仲良くなるのは無理だとしても、そのうち友達になれる可能性はある。

 それこそ、かつての俺とアリア嬢のように。


「……ふっ」


「あら、何を笑ってるんですの? レザード殿下」


 ロレッタ嬢が、不思議そうな顔で聞いて来た。


「何、アリア嬢との出会いのことを思い出してね」


「あら、そういえばその辺のことは詳しく聞いてませんでしたわね。いったいどんな風だったんですの?」


「ああ、その頃のアリア嬢はまだナイフのように鋭く尖っていてな……」


 俺の話に、ロレッタ嬢はもちろん、ディアナやアレクも興味深げに耳を傾けて来た。


「それちょっと、わたしも興味ありますね。あの朴念仁ぼくねんじん……もとい、人付き合いに慎重なアリア様が、どんな風に皆様を攻略……ではなく、親交を深めていったのか」


 ずいぶん回りくどい言い方をしながらも興味津々なパーシアを加えた俺たち五人は、それぞれの立場からアリア嬢を語った。

 秋晴れの涼やかな風が吹き込む待ち合い室で、彼女の到着を待ちながら。

おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!

西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!


今夜が最終投稿よ、お楽しみにね!


不器用なアリアの行く末が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!

ブクマや感想もお待ちしておりますわ!

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