「檻の中に」
捕まえた敵船員の案内通りに、僕らは進んだ。
散発的に襲いかかって来る一団を蹴散らし蹴散らし、やがてたどり着いたのは船の一番底だ。
「……まあたしかに、人質を収容するなら一番劣悪な環境にするわよね」
いかにも嫌そうな顔で、鼻をつまみながらジェーン。
喫水線──船体が水に浮かんだ時の、水面ぎわの線──よりも下に位置する船底は、様々な物品の収納スペースになっている。
当然日の光など入って来ず、おそらく掃除もしておらず、さらに船独特の湿気もあって、実に嫌な臭いがする。
「こんなところにレイミアを置いておくだなんて……」
「やめてくれ! 痛い痛い! ちゃんと案内するから蹴らないでくれ!」
武器を取り上げ後ろ手に縛った案内役の敵船員が、尻を蹴られたことで悲鳴を上げた。
「この力……本当に女学生かよ、信じらんねえ。ほとんど化け物じゃねえか……」
「今、何か言ったか? 言っておくが、僕だって一応女ではあるんだからな?」
「言ってねえ! 言ってねえから……って痛い痛い痛い!」
ぶつくさ言う敵船員の案内に従って進んでいくと、やがてたどり着いたのは船底の一番奥。
鉄の檻がいくつも設置されているスペースだ。
檻の中を覗くと、身なりの良い少年少女たちがニ十数人捕らえられている。
ドレスを着たのや学園の制服を着たの、いずれもレイミアと同い年ぐらい見られる幼い子供たちだ。
「うわ……これ、全員外国の変態金持ちに売るつもりだったわけ? すごいわね。今まで色んなゲスを見てきたつもりだけど、これほどのは見たことないわ……」
「感心している場合かっ」
口元に手を当てドン引きしているジェーンはさておき、僕は檻の番をしていた男を殴り倒して鍵を取り上げた。
「皆、安心しろっ。僕はアリア・デア・ストレイド、助けに来たんだっ」
僕の声かけに、捕まっていた少年少女はわっと希望に満ちた声を上げた。
「よし、ゆっくり順番に出ろ。いいか、焦るなよ? せっかく脱出出来ても、転んでケガしたんじゃバカバカしいからな」
口ではそう言いながら、しかし一番焦っていたのは僕の方だった。
お行儀よく列になって檻を出てくる子供たちの中に、レイミアの姿がない。
「レイミア! レイミア・デア・ストレイドはいないのか!?」
リーダー格の女の子を捕まえて話を聞くと──
「レイミアちゃんは医務室に連れてかれたよ! 捕まった時に頭をぶたれて、ぐったりしてたから! 女の人が悪人の親玉みたいな人に頼んでたの! どうか船医さんに見せてあげてって!」
「頭をぶたれて、ぐったり……?」
ぐらりと一瞬、視界が揺れた。
本気で倒れそうになったが、なんとか踏みとどまった。
「ちっ……おいおまえ! 次は医務室だ! 医務室へ案内しろ!」
「ひいいいいいっ!? わっかりましたあああっ!?」
ここまで道案内をさせた敵船員を脅しつけると、僕は通路を走った。
「……頼むレイミア、無事でいてくれ……っ」
レイミアの無事を願いながら、必死で。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
檻の中にレイミアはいなかった。
しかも不安なことを聞かされて……?
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