「港湾へ」
知る限りの破滅フラグと現場の状況、聞き込みなどから、ジェーンはレイミアの連れ去りを強盗団『カリンガの夜鷲』の仕業だと断定した。
ヘラお母様を探していたレイミアが、運悪く遭遇、そのまま連れ去られたのだと。
「まさか、ヘラお母様が強盗団の一員だったとはな……」
頃は夜。
僕は馬──星月姫受賞の副賞で貰った駿馬──を駆り、フェザーンの大通りを走っていた。
後ろにはジェーンが乗っていて、『カリンガの夜鷲』のことをあれこれと教えてくれる。
「ストレイド家の高価な家財を売り払い、逆に安価な偽物を多額で購入し、最終的には強盗団の突入を手引きして一家を全滅させるというシナリオなのよ」
「……なんというひどいシナリオだ。しかしたしかに、おかしな行動は多かったな……」
僕がどれだけ高貴な人たちとの人脈を築いても、表彰されるなどの善行を積んで家名を上げても、ヘラお母様はまったくいい顔をしなかった。
むしろそれまで以上に生活態度に文句をつけてくるようになった。
僕がお父様の商談に立ち会うようになってからは、さらに露骨に不機嫌になった。
まるでストレイド家の利益になる行動を嫌うかのように……。
「……そうか。あの人がなあ……」
とても残念に感じた。
日頃の態度がどうあれ、レイミアはヘラお母様を家族として大事にしようとしていたから。
落ち込んでいるのをなんとかしたいと、日々試行錯誤を繰り返していたから。
それがまさか……。
「言っとくけど、情けをかける必要なんかないからね」
「ふん、僕を誰だと思っている」
ジェーンの心配を、僕は鼻で笑った。
「『組織』最強の『掃除人』だぞ。敵が二十人いようが三十人いようが、すべて綺麗に片付けてやる」
「うん、調子出て来たわね。それでこそアリアだわ」
ジェーンは僕の肩を叩いて笑った。
「アリア様! 前を!」
「見えたぞアリア嬢! 港だ!」
6頭立ての高速馬車に乗ったレザードたちが、口々に叫んだ。
前方に目をやると、まとまった数の灯りが見えた。
商業都市フェザーンの、日々何百艘という大型船舶が行き来する港湾施設だ。
「間に合ったか……ん? こんな夜に出立する船があるだと……?」
「あれよ! あれが『カリンガの夜鷲』の武装船! 絶対逃がしちゃダメよ!」
僕の疑問に、ジェーンがすかさず答えた。
「逃げる? 隠れるではなく逃げる? どういうことだ。奴らの狙いはストレイド家の財産なんだろう? ここを去ってどうするつもりだ?」
「レイミアを捕まえたことでシナリオが分岐したのよ。ストレイド家の財産に見切りをつけた『カリンガの夜鷲』が、この地を去る最後の大仕事で、学園に通うレイミアと同年代の子供たちを二十数人誘拐して海外に売り飛ばすの。お貴族様の子供が大好きっていう最低の変態どもが高値で買ってくれるからってことでね。たぶん今頃、学園は大騒ぎになっているはずよ」
「なんという……」
あまりにもひどい話に、僕は一瞬クラリとした。
だが、すぐに持ち直した。
「ええい、それがどうした! 追いついて捕まえればいいのだろう!? ──レザード!」
開き直りに気味に叫ぶと、僕は後ろを振り返った。
「あの船を追うぞ! 今すぐ動かせる船を用立ててくれ!」
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
レイミアを乗せた船が沖へ出てしまう……その時アリアは!?
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