「世界はレイミアの存在を許さない」
練習場を飛び出した僕とジェーンは、外で決着を待っていた皆にレイミアの捜索を頼んだ。
僕らの緊迫感が伝わったのだろう、皆は一切の疑問を差し挟まず、一斉に動き出してくれた。
生徒たちの横の繋がり、自らの親を利用した縦の繋がり、捜査網は迅速に広がっていく──
捜索中、ジェーンからレイミアのことを聞かされた。
アリアの破滅フラグは無数にあるが、そのどの未来においても彼女は生きていないこと。
7歳の誕生日を迎える前に死に、それがアリアの性格に大きな影をもたらすこと。
僕の知らない、恐ろしいゲーム設定の話を。
「でも、レイミアの誕生日はもう過ぎてるんだぞ? ついこの間、盛大に祝ったところだったんだ。ベスお手製の3段重ねのケーキを囲んで誕生パーティをして、以前から欲しいと言っていた虫眼鏡をプレゼントしたら、飛び上がって喜んでいたんだ」
「だからこそ、でしょ。この世界がどこまでゲームのシナリオに忠実かはわからない。だけどもし、世界がバランスを保とうとするならば……強制的にでもあるべき姿に戻そうとするならば……」
「そんな……そんなことが……っ」
見つかったのは、地下2階と地下1階の間の階段の踊り場だった。
と言っても、レイミアそのものではない。
レイミアが気に入って身に着けていた猫耳のカチューシャが床にむなしく転がっているのを、レザードが見つけてくれたのだ。
「アリア嬢、それはレイミアが頭につけていたもので間違いないな?」
「ああ、間違いない。だが……これ、壊れて……?」
猫耳の片方が取れ、耳同士を繋ぐ金属の芯が歪んでいる。
単純に落としただけではこうはならないだろう、何か強い衝撃を受けたのは明らかだった。
「……アリア、ここを見て」
そう言ってジェーンが指差したのは、壁についた赤い染みだった。
壁の色が茶色なのでわかりづらいが、それは間違いなく血の染みだ。
壊れたカチューシャ──
誰のものかわからぬ血──
世界はレイミアの存在を許さない──
「……っ」
ゾッとした。
全身に悪寒が走り、立ちくらみがした。
脳裏に浮かんだのは、最悪の状況だ。
身代金目的の誘拐? あるいは何らかの犯行現場を目撃したことによる口封じ?
大人の暴力に晒されたレイミアがどこかへ連れ去られていく光景が、鈍痛とともに頭の中を埋め尽くしていく。
「どうして僕は……見ていてやれなかったんだ……」
ぼそりと口から漏れたのは、自責の言葉だ。
「普段から色んなことへ顔を突っ込むのが危ないのはわかっていたのに……。不正の証拠を探る時だって、たまたま上手くいったから良かったようなものの、実際には紙一重だったじゃないか……。なのになんで……」
なんで僕は、レイミアのことを見ていてやれなかったのだろう。
自分のことばかりにかまけて、星月姫だなんだと自惚れて。
本当に大事にしなければならないものは、すぐ傍にあったのに……。
「アリア」
こうして友達が出来たのは、家族やベスたちと上手くやれるようになったのは、すべてレイミアのおかげだ。
こちらの世界に来て間もない僕が、さてどうしようと首を捻っているところに声をかけてくれて。
人付き合いが上手くいかないと嘆く僕に、何くれとなくアドバイスをくれて。
いつだって傍にいてくれて、天真爛漫な笑顔で場を和ませてくれて。
「アリア」
もしレイミアを失ったら、僕はどうすればいいのだろう。
何を思い、何を望んで毎日を過ごせばいいのだろう。
静寂に満ちた日常の中で、何を楽しみにして生きていけばいいのだろう。
「僕はいったいどうすれば……」
「アリア! こっちを見なさい!」
バシンと、思い切り頬を引っ叩かれた。
「?????」
「いつも言ってるでしょうが! 場が混乱して、どうすればいいかわからなくなったら、いったん基本に立ち返るの!」
「基本……」
ああ、そうだ。
ジェーンや『ボス』が、いつも僕に口を酸っぱくして言っていたっけ。
基本に立ち返れ。
周囲の状況に惑わされず、単純なことのみを考えろ。
「独断せず、『管理官』に連絡をとり指示を仰ぐこと……」
「そうよ。そして今、あんたの目の前には誰がいる?」
「ジェーン……君には何か、策があるのか?」
「当たり前でしょ。こちとら伊達に『管理官』で『オタク』じゃないのよ」
口元に獰猛な笑みを浮かべると、ジェーンはバシバシと僕の肩を叩いた。
「さあ、狩りを始めるわよ。わたしとあんた、ゴールデンコンビの力を見せつけてやろうじゃない」
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
さて、レイミアの運命が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!
ブクマや感想もお待ちしておりますわ!




