「ジェーンと事の真相」
「君はもしかして……ジェーン・オルブライトか!?」
「?????」
僕の質問に、パーシアは一瞬キョトンしたような顔になった。
だがすぐに言葉の意味を察したのだろう、ガバリと跳ね起きた。
「は? は? はあああーっ!? てことは何!? あんた何!? その口調と『僕』呼びと……強さとっ! もしかして……もしかしてあんたって……!?」
「そうだ、その通り。僕は亜理愛だ」
「ってそれじゃわかんないわよ! アリアも亜理愛も音は同じじゃない!」
「た、たしかに……。ええとええと……そうだ、『掃除人』の方だ。ひさしぶりだな、ジェーン」
「!!!!!」
その瞬間の、ジェーンの表情こそ見ものだった。
口をあんぐりと開け、目をかっ開き、髪の毛をかきむしりながら僕を見ると……。
「ホントに!? ホントに!? ホントにあんたあの亜理愛なのってああもうめんどくさいからアリアに統一するわね!」
「いや、音だけだと全然わからないからそっちで勝手に処理しれくれればいいと思うが……」
「ああー! その反応! いかにも素っ気ないクソ真面目な感じ! まさしくアリアだわ! ホントにアリアね!」
「や、だからどっちだかわからないと……」
「ああーもういいわっ! どっちでもいいけどホントに良かったわー! わたしってひとりじゃなかったんだっ! 良かった良かった! 正直ホームシックにかかってて、精神的にヤバいところだったの! ああー良かったっ! あっはははーっ!」
よほど嬉しかったのだろう、今までの険悪なムードが噓みたいな気安さで話しかけてくる。
「そうよねー、そうよねー。考えてみればたしかに、あり得ない話じゃないのよねー。だって考えても見てよ。わたしたちが死んだのって、わたしのアパートがいきなり爆発したのが原因じゃない。んでその時、あんたも一緒にいたでしょ? 一緒にゲームしてたじゃない」
「一緒にゲームしてた……? ああなるほど、そうだったのか。敵組織の報復を受けたのだろうとは思っていたが、あれは君のアパートでだったのか……」
するとジェーンは、不思議そうな顔をした。
「何よ、覚えてないの? 自分の死因」
「んー……正直その辺は、頭に靄がかかったような感じでだな……。チクリとした痛みが時々あって、そのつどわずかに思い出したり出さなかったりで……」
「何よ、だらしない。『組織』最強の『掃除人』が、状況把握すらまともに出来てないなんて」
「よりにもよって住み家を探り当てられた君に言われるのは、実に心外なのだが……」
「ふひゅ~♪ ふひゅう~♪」
都合の悪いことを誤魔化そうと、吹けない口笛を吹くジェーン。
いや本当に、ジェーンが住み家さえ探り当てられなければ今も僕は向こうで普通に生きていたはずなのだが……。
「……なんて、今さら言ってもしょうがないか」
僕はしみじみとため息をついた。
実際のところ、ほっとしているのは僕も一緒だった。
この『組織』きってのゲームオタクのアメリカンが一緒だというのは、世界的に非常に心強い。
「ああー……でもそうか、だとしたら悪いことしたわね。あなたが相手だと知ってたらケンカなんか吹っ掛けたりしなかったのに」
額を叩き、いかにも悔しそうな口調でジェーン。
「それは、ケンカしても勝てないからという意味か?」
「まあそれもあるけど……どっちかってゆーとあんたがあんただからかな。ほら、あんたって死ぬほど不器用でしょ。友達を作るどころか普通に人と会話することすら怪しくて、だから『ボス』に『友達作り』を命じられて」
「う……っ」
その通り。
そして僕が頼ったのが、一番歳が近いジェーンだったわけだ。
「そんなあんたに『友達』どころか『恋人』が出来るとなったら、そりゃあ応援するわよ」
「こ、こここここここ……恋人なんて話は無いからっ、無いからなっ!? 全然まったく無いんだからなっ!?」
「いいわよ、その反応だけで十分ご馳走さまよ」
必死に否定する僕を、ジェーンはケラケラと笑った。
「ともあれ、そうゆーことよ。わたしはあくまで、あんたが赤の他人だと思って今まで対立して来たわけでさ。この世界でふたりきりの同胞の、戦友の幸せを邪魔しようとは思わないわ」
「そ、そうか……。しかし君はそれで平気なのか? その……攻略対象キャラが盗られても……いや、決して盗ったわけではないのだけども……」
「んー……まあ、他にも攻略対象キャラはいるしね。レザードやアレクだけが男じゃないし。ええと……図書室の貴公子イネスでしょー? 隣国の皇太子アルフレッドでしょー?」
ジェーンはこれから起こるだろう攻略対象キャラとの出会いイベントを、さも楽しそうに物語り……。
「乗るべき玉の輿はいくらでもあるの。だからまあ気にしなさんな」
バンバンと、気楽な様子で僕の二の腕を叩いて来る。
「玉の輿ねえ……君って以前からそんなこと言ってたっけ?」
向こうの世界でのジェーンは美人だけど極度のオタクで、生身の男に恋するような感じはまるで見受けられなかったのだが……。
「ああー……まあね。別に宗旨替えってわけじゃないんだけども……」
ジェーンはぽりぽりと頭をかきながら、恥ずかしそうに言った。
「ほら、オーガン家って母ひとり子ひとりの、貧しい家庭でしょ? 財産なんて小屋と小さな畑しか無くて、贅沢なんか出来っこ無くて……。それでもエレナさんはなんとかしてくれようとするわけ。わたしにひもじい思いをさせないように、惨めな思いをさせないように、あれこれ心を砕いてくれるわけ。そういうのを見てたらさ、わたしがなんとかしなきゃって思うじゃない?」
「……つまり、今さら家族愛に目覚めたと?」
「恥ずかしい言い方やめてっ!」
顔を真っ赤にしたジェーンが、バシバシと激しく僕の二の腕を叩いて来る。
「柄じゃないのはわかってるのよ! だけど……! だって……! しょうがないじゃない!」
「いや、わかるよ」
ジェーンもまた、僕同様に産まれついての孤児だ。
銃弾飛び交うスラム街を口八丁手八丁で生き延びた結果、『組織』の『管理官』となった身だ。
親はもちろん家族からの愛情なんて、受けた覚えは一切無い。
だけど、だからと言ってまったく何も感じないというわけではないのだ。
愛を与えられれば嬉しくなるし、代わりに何かしてあげようと思ったりもする。
それがジェーンの場合は玉の輿に乗るということで……その結果として……。
「そ、そうよ! わかるでしょ!? ともかくそうゆーことなの! なのでこの話は終わり! 以上! しゅうりょー!」
両手をぶんぶか振って、辺りの空気をかき回すジェーン。
どこか懐かしいそのしぐさを眺めながら、僕は改めて、彼女との決闘の終わりを感じていた。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
なるほどねえ、アリアの預かり知らぬところで、ジェーンはそんなことをしていたのねえ。
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