「まさかの正体」
パーシアは、僕が上からどいてもすぐには立ち上がらなかった。
精神的衝撃が大きいのだろう、床にゴロンと大の字になり、悔しそうに天井を見上げている。
「ウソでしょ……何なのよその強さ。わたしだってけっこう強いつもりだったのに、こんなに簡単に……」
「君は強かった、それは間違いない。この学園どころか衛士府にだって、君に勝てる人間はほとんどいないだろう」
「……何それ、励ましてるつもりなの? 勝者の余裕?」
「ただの事実だ。僕は当初、君のことを脅威に感じていた。身のこなしが尋常でなく、敵にすれば相当苦戦するだろうと考えていた」
「でも、一撃だったじゃない」
「違う、十分に観察した上での一撃だ。観察する時間があったからこそ出来たんだ」
掛け値なしの、それは心の底からの感想だった。
もしまったく別の状況で決闘が行われていたら、僕はきっと、もっとずっと苦労していたはずだ。
「……わかんないわ。いや、言ってることはわかるけどわからない。あんたがいったい何者なのか」
パーシアは上体を起こすと、床にあぐらをかきながら僕を見た。
負けを認めたことで力が抜けたのだろうか、その目には先ほどまでの敵意は無く、ただただ不思議そうな色のみがある。
「今さら元の世界へは戻れないし、守秘義務も何も無いと思うから言っちゃうけどね。わたしって元軍人なの。と言っても、正式に国には認められていない、非合法組織の人間だったんだけどね」
「国に認められていない……非合法の……?」
はて、どこかで聞いたような話だなと思っていると……。
「ともかくさ、軍隊格闘術もその時に習ったわけ。実際の身分は後方指揮官で、実戦は行わない立場だったんだけどね。それでもひと通りの訓練は積まされた。なのに負けた。しかもこんなにコテンパンに」
「後方指揮官……」
「ま、あんたに言ってもわかんないだろうけどね。何せ自国に敵対する国への諜報とか扇動とか破壊工作を目的とする組織だったから。ちなみにわたしは『管理官』の立場でね、ちょうどあんたと同じ名前の女の子を担当していたところだったんだけど。そのコの主な任務は要人暗殺でね……って、話が逸れたわね。ともかくわたしはそういう人間で……」
「あ」
「……ん? 何よ、どうしたの?」
「あ、あ」
「だから、どうしたの? なんでそんなに驚いてるのよ」
「あ、あ、あ」
「ちょっと、ホントにどうしたの? あんた幽霊でも見たみたいな顔をしてるわよ?」
「あ、あ、あ、あ」
「ちょっと、ホントに怖いからやめてくれる? いったい何をどうしたの?」
「あ、ああ、あああ、あああああああああああああああーっ!?」
攻略対象キャラへの異常なまでの執着──派閥を組織するという思考の合理性──身のこなしと軍隊格闘術──非合法組織と『管理官』──アリアと同じ名前の女の子を担当していたこと──その女の子の主な任務は要人暗殺──すべての点が、線として繋がった。
「どうしちゃったのホントに!? 救急車呼ぶ!? ってこっちの世界にあるわけないけど!」
「き、ききき君はもしかして……っ!?」
パーシアを指差すと、僕はこう訊ねた。
「ジェーン……ジェーン・オルブライトか!?」
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
ええーっ!?
パーシアの正体があの人だったなんてっ!?
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