「戦いの始まりと終わり」
「──というわけで行くわよ! あんたの顔面を、二度と見られないようなブサイク顔に変えてあげるわ! そうしたら皆、やっぱりわたしの方がってなるはずよ!」
なんともひどい理屈で攻めかかって来るパーシア。
「そら!」
初撃は左の掌底を顔面へ──僕は顔を傾けてこれを躱した。
「そら!」
二撃目は右の貫き手を喉元へ──僕は左手でこれを横へ捌いた。
「そら!」
三撃目は右の前蹴りを鳩尾へ──僕は体を捻ってこれを躱し、くるんと入れ替わるようにしてパーシアの後ろへ回った。
「……ふん、よく躱すじゃない!」
背後をとられるのを嫌ったのだろう、パーシアは大きく跳んで僕から距離をとった。
「そちらこそ、なかなか鋭い攻撃だな。口だけではないようだ」
「キィィィー!? 何よその上から目線! 生意気生意気っ!」
僕の言葉にイラついたのだろう、パーシアは嵩にかかって攻め立てて来た。
目、耳、喉、顎、心臓、脇の下、すい臓、膝、足の甲。
スポーツや格闘技では絶対許されないような急所への攻撃を、容赦なく繰り出して来た。
「……ほんっとに素早いわね!? いったいあんたなんなのよ!」
「それはお互い様だろう」
連続攻撃の波に飲まれないよう身を躱し、そのつど手で捌きながら、僕は冷静に観察を続けた。
パーシアのそれは格闘技ではない。おそらく軍隊格闘術だ。
一般的に知られているタイプの格闘術とは違い軍事用の、つまりは相手を行動不能にすることを前提に考えられた技術で、基本動作の中に急所攻撃が含まれている。
練度も高く、普通の格闘家やケンカ自慢ではまず太刀打ちできないレベル。
だがパーシアにとって不運だったのは、相手が普通の格闘家でもケンカ自慢でもないこの僕だったことだ。
「なんなの!? ホントになんなの!? 一発ぐらい当たりなさいよ!」
まったく当たらないことに焦りを覚えたのだろう、パーシアはさらに前のめりになって攻撃を仕掛けて来る。
その分重心は前にかかり、回避行動がしづらくなる。
「……君、たぶん実戦を経験したことないだろう」
「はあああーっ!?」
パーシアの攻撃を受け流しながら、僕は言った。
「いや、わかるよ。あまりにも攻撃が素直すぎるんだ。コンビネーションも教科書通りで、全部が全部急所を狙っていて……だから逆に、相手しやすい」
「そんなこと言って! 実は嫌なんでしょう!? 狙って欲しくないから言ってるんでしょう!? わかるわよ! わたし、そういうのに詳しいんだから!」
頭に血の上ったパーシアは、まったく聞く耳を持たない。
「きっと、激しい練習で身に着けたんだろうな。そしてたぶん、成績自体は良かった。だから、そこから先のことは何も知らない」
「ああもう! そのムカつくお喋りをやめなさい!」
「教えてやろうか、攻撃を当てるためのコツ」
「はあああああーっ!? あんた何をふざけたことを──」
「当たらない時はな、自らの体を削ってでも当てにいくんだ」
激昂するパーシアの膝に、僕は自分のそれを思い切りぶつけた。
「いっ……!?」
人がとる戦闘行動の根本といってもいい場所を蹴られ、パーシアは顔を歪めた。
息を詰め、全身の筋肉を硬直させた。
「そうすれば、否が応でも相手は止まる。止まればあとは……こちらのものだっ」
「え──」
僕はパーシアの腕を掴むと、肘関節を極めながら背負うようにぶん投げた。
硬直していたパーシアの体は、踏ん張りきれずにぐるりと宙を舞った。
「!!!!!」
受け身もとらせず背中から思い切り床に叩きつけてやると、パーシアはもんどり打って苦しがった。
ゴロゴロと転がって、盛んにえずいた。
「あえ……あぐ……っ?」
息が出来ないのだろう、涙ぐんでいるのをそのままうつ伏せに取り押さえた。
膝を首の後ろに乗せ、体重をかけてぐっと押し込んだ。
「苦し……っ、苦し……っ、やだ……やめてっ」
たまらず床をかきむしるパーシア。
「これで結着だ。いいか? パーシア」
「わかっ……から、わかった、から、も……離して……っ」
唇を噛みながらのその一言が、僕とパーシアの長きに渡る戦いの終わりだった。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
アリアはさすがの強さだったわね。
だけど実際には、大変なのはこの後なのよね……。
そんなアリアの今後が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!
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