「勝利の行方は」
さて、ベスお手製の衣装だが。
上衣は無数の金色の組み紐とボタンで留められている紺色の長袖。
下衣はピッタリとした灰色のショースと、その上からフリルのついた黒いチュチュを身に着けている。
銀髪はいつものロングではなく、後ろを編み込んだツインテールに変えている。
ちょっと地味な色合いだが、ベス曰く──
「軍装の厳めしさを湛える上衣と、活発でありながら可愛さをも兼ね備えた下衣と髪型! そこにお嬢様本来の透明感がある美しさの加わったこれこそが、まさにヴァレスティ様の顕現……いえ、ヴァレスティ様をも超えた至高のお姿なのです!」
──とのこと。
どうやらベスとロレッタ嬢が好んで読んでいる小説の中の登場人物の服装らしい。
会場に数多くいるだろう女性層を狙ったというこれは、言うならばコスプレのようなものだ。
だが、そういった意味での恥ずかしさはなかった。
そもそもこちらの世界に来るまでスカートすら履いたことのない僕だ。
普段着ているキラキラしたドレスに比べれば、まだしもこういった服装の方がありがたい。
「剣闘用の練習着にも、どことなく似てるしな」
むしろリラックスした状態で僕が壇上に上ると……。
『おおおおおおおおおお──』
一瞬辺りが静寂に包まれたかと思うと、すぐに爆発的な歓声が沸き上がった。
『──おおおおおおおおお!』
オペラハウスの中を乱反射したそれが、天井から怒涛のように振り落ちて来る。
「う、うわ……っ?」
その激しさに、僕は思わず後ずさった。
──ちょ、ちょっと見て!? アリア様ったらまさかの男装よ!?
──ふわああああー……? カッコいいだけじゃなく可愛らしさもあって……何かしらこう、胸の奥が熱くなるような……っ?
──いけない……目覚めちゃうっ、わたしの中の獣が目覚めちゃうっ!
ベスの狙い通り、下級生から上級生まで多くの女生徒が熱っぽい瞳で僕を見つめてくる。
──……あれ? 女になんかまるで興味が無かったはずなのに……。なんだろうこの暖かい気持ちは……?
──わかる。まるで天使か女神の降臨を見ているような、思わず跪きたくなってしまうような感じな。
──おまえらそれ、完全に恋しちゃってんじゃん。もはや崇拝の域じゃん。いやわかるけどさっ。
男子生徒たちにもウケはいいようで、普段女生徒になんて目も向けないようなおカタい人までが頬を染めている。
──ああ……あああ……っ。なんて素晴らしいのでしょう。こんなことならいっそ、もう一度学生だったあの頃に戻りたい……。
──……え、え? 戻ってどうするんだおまえ? 今の家族は? 生活は……ってなんだその恋する乙女みたいな目は?
──それはもちろん、一から人生をやり直すのですわ。あの方の愛姉妹となって、熱烈な口づけを交わして、そして……っ。
──ええー……。
生徒たちだけでなく、親御さんたちも総じて高評価だ。
一部家庭問題にまでなっているところもあるようだが、まあ……さすがに冗談だろうし……。
「……こりゃすごいな。さすがはベスの仕立てだ」
僕は思わずつぶやいた。
投票は、各自が手にしている色つきの投票用紙によって行われる。
色は代表10人それぞれにつき一色割り当てられていて、パーシアの色は白で、僕の色は赤。
20人ほどの係の生徒が会場中を走り周って大きなカゴに集めていく。
回収したカゴがステージ脇にどどんと集まり、さて厳正な集計をというところだが……。
──すごい、完全に真っ赤だ!
──勝負ありでしょ、こりゃ数えるまでもない。
──アリア様だ、やった!
──勝者はアリア・デア・ストレイド男爵令嬢!
カゴの中身は真っ赤な投票用紙で埋め尽くされていて、気の早い者はすでにコールなど始めている。
「こんな……こんなバカなことが……」
唖然とした顔で立ち尽くすパーシアを尻目に、集計が行われていく。
赤の数が100……200……300……。
「このわたしが負けるはず……」
900……1000……1100……。
「メインヒロインなのに……」
1500……1515、1516、1517、1518──
赤の票数が過半数を超えた瞬間、司会者がひと際大きな声を張り上げた。
『さて、勝者の名をコールします! 第35回星月祭、栄えある星月姫の座を勝ち取ったのは──アリア・デア・ストレイド男爵令嬢!』
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
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