「戦闘装束」
さて、星月祭3日目。
泣いても笑ってもこれが最終日だ。
アレクとディアナに加え、イレーヌ、ヌミシア、デアボラの3人まで引き抜かれた形となったパーシア派は、一転総崩れ。
機を見るに敏な生徒たちの多くがこちら側に流れて来た。
結果として、星月姫選びの段階で、予想得票数はこちらの600に対しパーシア派は300という状況。
生徒の親御さんたちの票数が2000もあるので逆転の目はまだまだあるとも言えるが、昨日と一昨日の僕の働き(昨日のは不可抗力だが……)のことを考えるなら、勢いは完全にこちら側──
「……ふん、まだまだよ。これぐらいの逆境、なんてことないわっ」
会場となった巨大なオペラハウスの舞台裏で、しかしパーシアは最後まで諦めていない様子だ。
「さあごらんなさいっ。これがメインヒロインの力よっ。悪役令嬢のあなたなんかに、間違ってもこの輝きは出せないでしょうっ」
階段を駆け上がり壇上へと躍り出たパーシアが身に着けているのは、真っ白なウエディングドレスだ。
コネを使い倒して仕立て上げたプリンセススタイルで、布地はもちろん縫製のすべてが豪華で豪奢。
ビスチェに施されたデコレーションは精密で、フレアスカートはふわふわと雲のような質感。
14歳の少女が着るには少々気が早いが、パーシアが本来持つお姫様的な雰囲気にはよく似合っている。
つまりは凄まじい完成度ということであり……。
『おおおおおお──』
会場に詰め掛けた観客の多くがどよめきを上げた。
『──おおおおお!』
老若男女関係なく、色めき立った。
「……見た目はいいんだよな。見た目は」
いかにもあざとく「きゃっ?」とか言って驚いているパーシアを、僕は苦い気ちで眺めた。
内面を知っている身としては実に寒気のする光景だが、観客のこの反応はけっこうまずいかもしれない。
「ううーん、はたして大丈夫だろうか……? ここで逆転されたら元も子もないのだが……」
「──大丈夫ですよ、お嬢様」
僕の後方に控えるベスが(なぜか鼻血を出したので、ハンカチで覆っている)、自信に満ち満ちた目で断言した。
「毎日毎夜、お嬢様のことを見続けて来たこのベスを信じてください。これはお嬢様にピッタリの、まさに乙女の戦闘装束と呼べるもの。パーシア様どころか、世界中のどんな美女やお姫様にだって負けはしません」
「す、すごい自信だな……」
さすがにそれは盛りすぎだろうと言いたいところだが、ベスが本気で仕立てたこの衣装は、たしかに素晴らしい出来だ。
僕の本質に合った、まさに戦闘装束と呼べるもの。
問題はそれが、星月姫選びという場にふさわしいかどうかだが……いや。
「うん、信じるよ。僕のために頑張ってくれた、ベスを信じる」
この日のために、ベスがどれだけの苦労をしてきたかを知っている。
日々メイドとしての仕事をこなし、僕のお付きとしてさらにいくつもの働きをした上で、夜遅くまで縫い物に励んで来た。
その情熱と、僕を見続けて来た目を信じよう。
「じゃあ行って来る。見ていてくれ、ベス」
顔を真っ赤にしたベスに向かって手を振ると、僕は階段を駆け上がった。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
泣いても笑っても星月祭最終日、アリアとパーシアの戦いの行方は!?
さて、そんなアリアの今後が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!
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