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「猫耳メイド喫茶③」

「くっ……ひどい目に遭った」


 午前中いっぱい働いて、ようやく得た休憩時間。

 バックヤードに引っ込むなり、僕は猫耳カチューシャをむしり取った。


「レザードめ、あれやこれやの手で辱しめて来て……っ。覚えてろっ、戦闘訓練の時にひどい目に遭わせてやるからな……っ」


 掌と拳を打ち合わせながら、ぶつぶつ。

 

「しかし意外だったな、あいつめ、超が付くほどのドSじゃないか。人が恥ずかしがるのをあんな風に楽しんで……本当にもうっ」


 ぶつぶつ。


「この分だと、将来は恐ろしく面倒な人間になるだろうな。一緒になる人の苦労がしのばれるっ」


 腕組みをしてつぶやいて、つぶやいて、ふと──

 その傍に自分がいる姿を想像してしまった僕は、慌てて宙を手でかき回した。


「違うっ、そうじゃないっ。一緒にいるのは僕じゃないしっ、苦労するのも僕じゃないっ。まったく、まったくもうっ」


「……そんなとこで何やってんだ? 師匠」 


「ってうわああああああああああああっ!?」


「っちょま、なんでいきなり関節を……痛でででででっ!?」


 突如横合いから声を掛けられたことで、僕は死ぬほど驚いた。

 あまりにも驚いたので、反射的に声をかけてきた人物の腕を捕って逆に捻り、壁に押し付けてしまった。


「……なんだ、アレクじゃないか」


 押し付けてから気がついた。

 燃えるような赤毛の偉丈夫、こいつはアレク。


「そうだよ! アレクだよ! わかったらいいかげんに離してくれ!」


 言われた通りに解放すると、アレクは腕を擦りながら恐ろしいものを見るような目で僕を見た。


「相手も確かめずにいきなり関節極めるとは、さすがは師匠というか……」

 

「いや、うん、その……あまりに驚いてしまってな……」


「相手が俺だから良かったようなものの、女だったらどうするんだ? 一歩間違えば傷害罪だぞ?」


「うん、その……すまない」


 あまりに当然の理屈に、僕がしょんぼりしていると……。


「なんだよ、今のはただ言っただけだ。そんなにかしこまらなくていいんだよ。どうせ将来的には俺の姉君になるわけだし、その程度のお痛は権力でもみ消しちまえば……」


 アレクがとんでもないことを言い出した。


「もみ消すとかそうじゃなく……は? え? 姉君……?」


「なんだ、違うのか? 師匠は兄貴と結婚するのだろう?」


「?????」


 は? え? 

 こいつっ……この男は何を言っているんだっ?


「いやいやいや、君、いったいどういう……自分で何を言っているかわかっているのか?」


「わかっているも何も……あれ?」


 はてと首をかしげるアレク。

 

「じゃあ違うのか? 兄貴とは結婚しない? へええー……へえええー……っ?」


 体をのけぞらせ、本気で驚いているらしいが……。

 

「やれやれ、君は本当にバカだな。まったくわかっていない。世の男性というものがどのような女性を望んでいるかを。それこそあれだ、ふわふわしておっとりしていて……ええと、声とかも可愛くて、常に男性を立ててだな。皆、そういうのが好みなんだ。僕みたいに口より先に手や足が出るガサツな女は、そもそも受け入れられないんだ。しかもそもそも、レザードは王族だろう? 身分的にも、僕以外にもっとふさわしい女性がいるはずだ」


「ううーん……師匠って意外とバカだよな」


「はああああーっ!?」


 まさかの発言に、僕は思わず声を荒げた。

 いや本当に、こんな脳筋に言われるとは思っていなかった。


「だってそうだろう。あのな、兄貴って男はあんな見た目しといてまるっきり女に興味なんか無いんだよ」


「え? だって……」


 僕には告白して来たのに? 


「考えてもみろよ。産まれてからずっと権謀術数の世界で生きてきて、気を許せる者などひとりもいない。当然近寄って来る女も打算まみれさ。体に顔に身分にコネ、あらゆる手段を使って兄貴の心を掴もうとして来る。そりゃあうんざりもするだろうさ。女なんかいらねえって思うのも当たり前。そこへ来て師匠ってわけだ」


「僕……」


「体は細いが顔はお綺麗なものがついていて、けれど他の女のように兄貴に対して尻尾を振らない。それどころか決闘で叩きのめしてプライドをぐちゃぐちゃに踏みつけにして、さも当然って顔してやがる」


 アレクはさもおかしそうに笑う。


「あんまりにも悔しいからその強さを学ぼうとして、傍にいるうちにどんどんと気になっていった。人として、やがては女として。兄貴としてはそんな感じなんだよ」


「……」


 それはつまり、こういうことだろうか。

 レザードは僕の見た目だけでなく、中身もセットで好きになってくれたということだろうか。

 アリアであり、亜理愛アリアである。

 今のこの僕自身を好きになってくれたということだろうか。

 

「おーおーおー、真っ赤になっちゃってまあ」


「……ち、違っ?」


 指摘されて初めて気が付いた。

 頬が燃えるように熱くなり、鼓動が割れんばかりに響いている。


「ま、考えておいてくれよ。俺としちゃあ、お高くとまった高位貴族のお嬢様やわけのわからん遠国のお姫様なんかより、師匠の方がよっぽど姉君になって欲しいからさ」


 勝手なことばかり言うと、アレクはひらひら手を振りどこかへ消えた。


おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!

西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!


ようやく休憩のアリア。

レザードのからかいにドキドキ?


そんなアリアの今後が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!

ブクマや感想もお待ちしておりますわ!

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