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「猫耳メイド喫茶」

 新たな仲間を得た僕は、さっそく例の3人の切り崩しに着手した。


 というと大変な作業のように思われるかもしれないが、実際のところそれほど苦労は無かった。

 なぜなら僕はゲーム知識により、3人の悩みの内容をつぶさに知っていたからだ。


 ──たとえばイレーヌは、容姿に関する自己評価が異様に低い。そのせいで何事においても後ろ向きで、斜に構えて物を見る癖がついている。最終的には行き遅れになってしまうのではないかとの恐れを、わず14歳にして抱いている。 


 ──たとえばヌミシアは、生まれついての不器用で、勉学そして淑女としての習い事において他人に大きく遅れをとっている。となれば嫁の貰い手も現れにくいだろうし、イレーヌ同様に行き遅れになることを懸念している。


 ──デアボラはふたりとは逆で、小さい頃からの許嫁がいる。しかしその許嫁がパッとしない小太りの少年で、面食いの彼女としては大いに不満がある。そのことを将来バカにされるのではないかと、今から悲観している。


 いずれもたいした悩みでは無いと思われるかもしれないが、思春期真っただ中の本人たちにとっては大いなる悩みであり、その辺を知り尽くしているパーシアに言葉巧みに操られている。

 逆に言うならば、その根本の問題さえ解決してしまえばこちら側についてもらえるということでもある。


 そこで僕は、皆の力を借りることにした。


 ロレッタ嬢とディアナにはイレーヌとヌミシアに接触してもらい、それぞれ化粧や服の着こなし、勉強や習い事の面倒などを見てもらうことにした。

 学園トップカースト(ひとりは『元』だが)のふたりに仲良くしてもらえる、しかも自分の悩みまで解決してくれるということでイレーヌとヌマシアは舞い上がり、あっさりとこちら側についてくれた。


 デアボラ担当はレザードとアレクだ。

 こちらはデアボラ本人ではなく、その許嫁であるロートレック侯爵の子息と仲良くしてもらうことにした。学園トップカーストのふたりと肩を組んで語らうロートレックのことを見直したのだろう、デアボラはふたりの属する僕の派閥にこれまたあっさりと鞍替くらがええしてくれた。


 さて、3人の幹部を引き抜かれたパーシア派は、急速な求心力の低下に悩まされた。

 掌握力の落ちた組織というのはもろいもので、500人にまで到達しようとしていた派閥の人員の1割強が、こちらへと流れ込んで来た。 

 星月祭せいげつさい開催を前にして、400人対400人とほぼイーブン。

 しかも勢いは完全にこちらにある。


 最後まで気を抜かずに頑張れば、勝利はかなりの確率で僕の方に転がり込んで来るだろう。

 そう、気を抜かずに最後まで……。

 頑張り続けないと……。

 頑張り……。




「頑張らねばとは思う。たしかに思うのだが……」


 学園祭初日のことだった。

 自分のクラスのし物について、僕はひどく憤慨していた。


「だからと言って、これ(・ ・)はないだろうこれ(・ ・)は!?」


 僕が身に着けているのは、白と黒のコントラストも鮮やかなメイド服だ。

 しかもお尻には猫の尻尾が、頭には猫耳のカチューシャまで付いている。


 そう、あろうことか我がクラスの演し物は猫耳メイド喫茶、しかも僕の役割は接客を主任務とするメイド役となってしまったのだ……。


「さすがに適材適所というものがあるだろう。僕なんかにやらせないで、他の可憐な女生徒たちにだなあーっ」


「はいはいはーい、無駄口を叩かなーい。あと、語尾には『にゃん』を付けるようにー」


 監督気取りなのだろうか、椅子に腰掛け、メガホンを片手に指導してくるディアナ。


「そもそも君は他のクラスの生徒だろうが、なんだって僕のクラスの演し物にっ」


「──にゃん、は?」


「……………………うう」


「パーシアたちのクラスに勝ちたいのでしょう? ならばリーダーのあなたがするべきことは?」


「精一杯努力して、少しでも票数を多く勝ち取ることです………………にゃん」


「ようーっし、その調子ぃぃー」


 僕が猫の鳴き真似をすると、ディアナは手を叩いて喜んだ。


「くっ……ディアナめ、この間の意趣返しのつもりだな……?」   


 頭にアイアンクローをかけたりしてさんざん脅したからだろう。

 さらに自らが堕とされた境遇に対する当てつけもあってか、ディアナの接客指導は徹底している。


「ほら、背筋はピンと。頭の上にお皿を乗せても落ちないように……うっ、何かしら、急に頭痛が……っ」


 そこそこトラウマになるぐらいの目には遭っているのだろう、時おり自爆したりもしている。


「まあいいではないですか。アリア様、猫がお好きなのでしょう? 手帳やらなにやら、いつも猫の模様があしらわれたグッズを使ってらっしゃるじゃないですか」


 とロレッタ嬢。


「いや、あれはだなあ……そもそもが僕のではなくアリアの持ち物であって……いや、うん……まあその……くそっ、なんでこんな目に……」


 転生者である僕ではなく、アリアが猫好きだったんですとはまさか言えない。


「そ、それにだな。そもそもこういった服は、もうちょっと女性らしい体型の人が着るべきだと思うのだ。例えばお尻とか胸とかがだな……極めて遺憾なことにその、物足りないというか……」


 アリアの体型は極めてスレンダーであり、お世辞にも女性らしいとは言えない。

 対してロレッタ嬢は実に立派なものをお持ちであり、そういった意味でも僕は引け目を感じてしまう。


「何をおっしゃってるんですか、そこがいいんですよっ。普段の凛々しさや毅然たる立ち居振る舞いとは相反した、女性としての容貌への悩みっ。そのギャップに萌えるんですよっ」


 頬を紅潮させたロレッタ嬢が、僕の手を掴んで力説してくる。


 ギャップ萌えという言葉はこちらにもあるのかとか色々疑問はあるが、こうして接近されると例のあのやり取りを思い出してしまうので、正直ちょっと気恥しい。

 

「わ、わかったよ。やればいいんだろ……」


 僕はロレッタ嬢から目を逸らすと、ごにょごにょぼやいた。

おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!

西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!


主人公としての自覚に目覚めたアリア……まさかの猫耳メイドコス?


うふふ、そんなアリアの今後が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!

ブクマや感想もお待ちしておりますわ!

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