「かつての取り巻きと新しい友達」
さて、ディアナの説明によると──
アレクとディアナという派閥内最大の実力者のふたりが抜けたにも関わらず、パーシア派の勢力は日に日に勢いを増しているそうだ。
実数にして400人超え。
星月姫の投票権は総生徒数1035人プラス来賓に配られる限定チケット2000枚によるもので、トータル3035票。
「現時点ですでに生徒の半数近くの票を獲得しているというのか?」
これはさすがに驚きだった。
「幹部クラスの方たちが優秀なのです。わたくしを除けばイレーヌ、ヌミシア、デアボラ……。この辺りが人心掌握をするの長けていて……」
ディアナが人心掌握に長けている……?
まあたしかに、人の心を操るのは何も真心のみではないからな。
金銭、力関係、尽きることなき人の欲。
その辺をコントロールすることで効率的に組織運営をすることが出来ているという意味だろう。
「しかし……イレーヌ……ヌミシア……デアボラと来たか……」
その名前には聞き覚えがある。
ゲーム内の、つまりは悪役令嬢である時代のアリアとよくつるんでいた3人だ。
いずれも下級貴族の末娘で、将来への漠然とした不安から不良の道を歩んでいたのだが……。
僕が以前と同じ道を歩まないと決めた結果、彼女らは単純に孤立したのではないだろうか。
行き場のない感情に悩み、立場に苦しみ……その心の隙を、転生者であるパーシアにつけ込まれたのではないだろうか。
不良であるが故に、彼女らは他の生徒の心の弱みにつけ込む術に長けていた。
組織の幹部に据えて票集めをさせるには、たしかに絶好の人材なのかもしれない。
「ふむ……なるほどな」
彼女らに居場所が出来るそれ自体は喜ばしい事だ。
だがそれが、パーシアの派閥のためというのであれば話は別だ。
ディアナのリークした情報によるならば、今や派閥はただの仲良しグループでは無く、内々で非人道的な行為まで行われているという。
いじめに迫害、つるし上げ。それらの指揮をあの3人が執っているのだとすれば……。
……。
…………。
………………。
誓って言うが、彼女らに特別な愛着は無い。
ゲーム内でのただの取り巻き。
行うのは基本悪事で、人格的にも褒められるような点はまるで無い。
普通に考えれば関わり合いにならないようにするのが一番で……。
だけど今──僕は無性に、彼女らを悪の道に誘い込んだパーシアに腹を立てていた。
「……なるほどわかった。その上で改めて、君を仲間に受け入れることを約束しよう」
僕の言葉に、ディアナはパッと表情を明るくした。
「だが、条件がある。先ほども言ったように裏切らないこと。過去の諍いを忘れ、互いに仲良くなること。上下関係などは無く、対等な『友達』となること。いいな?」
レザードとアレク。
ロレッタ嬢とディアナ。
4人は互いに真剣な顔をして見つめ合っている。
レイミアはひとりニコニコと笑っている。
「ようーっし、そうと決まりゃあ打ち上げだな、打ち上げ。皆でぱーっと派手に飲み食いしようじゃねえか」
アレクが破顔しながら言うが……。
「ん? いや君は別に、仲間にした覚えは無いのだが……」
「っておいおいおーいっ! そりゃあねえだろうが師匠! つうか大体俺のどこがダメだってんだ!? 腕っぷしも強くて顔も良くて家柄も良くて……」
「暑苦しいし面倒くさそうなところ」
「ぐはっ!?」
僕の率直な評価に、胸を撃たれたような派手なリアクションをして崩れ落ちるアレク。
「……すごいな、瞬殺だったな」
「アリア様……恐ろしい方……っ」
「……本当に容赦ないわね。あなたって」
「お姉さますごーいっ、手も使わないで倒しちゃったっ」
レザードとロレッタ嬢、ディアナが恐れおののき、レイミアだけがパチパチと手を叩いて賞賛してくれた。
「ともあれだ。そうと決まれば動こうじゃないか」
アレクの件を適当に片付けると、僕は拳を握って前に突き出した。
「パーシアを打倒し星月姫となって、学園に平和を取り戻す。そのために協力して欲しい」
今まで一度も公言したことのないセリフを、正面から口にすると……。
『…………っ!?』
皆は一様に驚愕した。
それぞれが息を呑んで、僕を見た。
無理もない。
僕は今まで、常に巻き込まれたポジションで星月祭に参加していた。
仕掛けられたからしかたなくとか、挑まれたからしかたなくとか、受け身な発言しかしてこなかった。
だけど今は、違うんだ。
パーシアという明確な敵がいる。
レザードにロレッタ嬢という明白に狙われた友達がいる。
イレーヌ、ヌミシア、デアボラの3人は人生を曲げられ。
レイミアに関しては、一歩間違えば死ぬところだった。
正直、今も自分がこの地位にふさわしいとは思えない。
だけど不思議な縁が僕らを結び、皆がこうして協力してくれている。
僕を信じ、力を貸してくれている。
それはたしかで……だからこそ今……。
「おおおーっ! やるぞーっ!」
驚いている皆を尻目に、真っ先に賛同の意を示したのはレイミアだった。
「お姉さまをせーげつきにするんだーっ!」
拳を突き上げぴょんぴょん跳びはねる。
その無邪気な振る舞いに、皆はふっと口元を綻ばせた。
わずかに遅れて、僕の拳に自分の拳をくっつけてくれた。
「よし、やろう。何があっても、この俺が全力で支えてやる」
「何かなんて起こりませんよ。アリア様が勝つのが、当然の帰結というものですわ」
「まあ、どうせなら勝ったほうがスカッとするわね」
「師匠なら勝てるさ、何せ俺に勝った愚兄の師匠なんだからな」
星月祭まであとひと月。
人材は揃い、意気軒高。
よし、皆。ラストスパートといこうじゃないか。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
さていよいよ、アリアが主人公としての自覚に目覚めたわよ。
これからの彼女の活躍に注目ね。
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