「まさかの処遇」
さて病休明け。
女医さんのアドバイス通り、普段通りに振舞おうとした僕だが……。
「普通に……普通に……あれ? 普通ってなんだっけ……?」
「お姉さまどうしたのーっ? お顔がぴききってなってるよーっ?」
レイミアも驚くほどに、僕は普通に振る舞えなくなっていた。
意識すればするほどに体が強張り、言動が怪しくなっていく。
「お、お、お、お、おはようみんなあああーっ」
中庭のいつもの場所に、声を上ずらせながら顔を出すと……。
「お、お、おはようございますアリア様、きょきょきょーうもっ、良いお天気でっ?」
ロレッタ嬢も僕と似たような状態らしく、噛んだり上滑りしたりと大変だ。
「お、お、おーいっ。どうしたんだふたりとも、元気が無いぞうーっ」
つられてだろうか、レザードも含めて3人、下手なオペラみたいになってしまった。
「あ……あははははははっ! なんだか今日は愉快だなあーっ!」
「おほほほほほほっ! まったくもってその通りですわね、アリア様!」
「ああーはっはっはっは! 笑えて笑えて、止まらないなあああーっ!」
僕らはそれぞれが、懸命に笑おう、その場の雰囲気を良くしようと試みた。
だがその結果、ますます空気がおかしくなるという負のスパイラルに突入してしまった。
手と手が触れ合っては頬を染め合い、目が合っては慌てて逸らし、同じタイミングで口を開いてはハッとして譲り合い……。
もどかしいような気恥しいような、なんとも言えない微妙な時間が流れていく。
そんな最低の空気を換えてくれたのはレイミア……ではなく──
「おーう、今日も今日とて勢ぞろいだなあーっ!」
大きな声、大きな態度で僕らの前に姿を現したのはアレクだった。
「なんだ、君なんか呼んだ覚えはないぞ。あっちへ行け」
「おーう、さすが師匠は今日も今日とてえぐい言葉を放って来るなあーっ。あれか、それも修行のうちか? 相手の言葉にいちいち動揺しないようにってことだろ? さすがだなあーっ」
「いや全然そんなつもりはないが、というかそもそも弟子にした覚えすらないのだが……」
最近では僕の押しかけ弟子を決め込んで勝手に訓練場に姿を現すアレクだ。
本当に図太いというかなんというか……。
「空気が読めない奴というのはどこにでもいるものだな。時も場所も相手のことも考えずにやりたい放題で……本当に……」
僕がため息をつきつき言うと、レザードとロレッタ嬢がぴくりと頬を震わせた。
なんだろう、誰かそういう奴に心当たりでもあるのだろうか?
「まあそう言うなよ。今日はさ、ほら、あんたらのことをこそこそ嗅ぎまわってたネズミを捕まえて来てやったんだから」
「ん? ネズミ?」
アレクが襟首を捕まえて差し出して来たのはしかし、ネズミではなく人だった。
しかもまさかのディアナ。
「ちょ……そんな玩具みたいに扱わないでくださいなっ」
床に投げ出されたディアナは、全力で苦情を述べた。
「しかも言うに事欠いてネズミだなんてっ! いくらなんでもあんまりじゃありませんことっ!?」
眉を跳ね上げ人を威圧するような、いつもの調子で……いつもの調子で……あれ?
いつもと何かが違うような……?
髪の毛が整えられてなくて方々がハネていて、着ているのもドレスではなく……え、まさかのメイド服?
「……これはいったいどういうことだ?」
僕が訊ねると、アレクがこれ以上ない明快な返答を返して寄越した。
「ああ、こいつ親父に死ぬほど怒られて、家を追い出されたんだってよ」
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
やっぱり不器用な子供たち……。
ってディアナが大変なことになってるようだけど……?
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