「レイミア・デア・ストレイド③」
レイミアは燃えていた。
姉の友達であり、自分にとっても本好き仲間であり、かつ会うたびに美味しいお菓子を持ってきてくれるロレッタを泣かせた悪い奴を退治するのだと、使命感に燃えていた。
「メラメラ……ッ、メラメラ……ッ」
炎の擬音を口にしながら、まず真っ先に始めたのは聞き込みだ。
ディアナの屋敷に住まう使用人やディアナの取り巻きたちに、今回のテストの結果について怪しいところがないか訊ねて回った。
「そうねー……たしかにいつもよりもかなり良かったけど、お嬢様も努力したんじゃない? 何せプライドを賭けた決闘だったわけでしょ?」
「普段通りに振る舞ってらっしゃったけどねえ。特段追い込んでいるような感じもなかったけど……でもあの方だからねえ。表に出さないように努力してたのかも」
「朝から上機嫌だったよ。絶対勝てるって自信に満ちあふれてる感じ。よっぽど勉強したんだろうねえ」
当然というべきだろう、皆はディアナの頑張りを讃えこそすれ、不正などこれっぽっちも疑っていなかった。
「むうー……むうー……むうー……」
悩んだレイミアは、今度はディアナをよく知る人物ではなく、よく知らない人物にターゲットを切り替えた。
公園で遊ぶ子供、ベンチで休んでいるおばあちゃん、郵便配達のお兄さんとたて続けに聞いたが……。
「てすとー? おねーちゃんがなにゆってるのかわかんないーっ」
「ええー? 公爵令嬢様がどうなさったってー? あたしゃちいと耳が遠くてねえー」
「ごめんちょっと仕事中なんで、子供の遊びにつき合ってる暇はないんだ。そこどいてくれるかな」
ターゲットを絞らなすぎたせいで、まともな返答が返って来なかった。
「むうー……むうー……むうー……」
その後もレイミアは聞き込みを重ねた。
学園の生徒や教師、出入りの業者……しかしなかなか期待していたような返事は返って来ない。
「犬ぅー…犬ぅー……おまえはなにか知らないかー……?」
困り果てたあげく、散歩中の犬をチョコで釣ろうとしたが、当然の如く無視された(犬にチョコを与えてはいけない)。
「ぐぬぬぬぬぬ……」
レイミアは、それでも諦めなかった。
「絶対しょーこをつかむんだっ」
小さな手でぺちぺち頬を叩いて気合いを入れ直すと、今度は直球勝負に出ることにした。
──ディアナが『ふせーこーい』をするなら、どんな風にすると思う?
というこれ以上無い剛速球を、片っ端から聞き込み相手に投げつけていったのだ。
このあり得ない行動は、多くの人の眉をひそめさせた。
子供がなんてことを考えるのか。
遊びにしてもひどすぎる。
幾人かの人にやめるよう言われたがレイミアはやめず──そしてこれが、望外の結果に結びついた。
テストの答案を管理していた教師、その教師と交渉を行ったディアナの使用人。
今回の不正行為に直接関わっていたふたりの人間の危機感を煽ることに成功したのだ。
こんな子供ですら不正行為のことを知っている。
ならば可及的速やかに証拠を隠滅しなければなるまい。
そう考えたふたりは互いに申し合わせ、ある林の中で焚き火を行った。
火の中に答案用紙を投げ入れ、燃やしてしまおうとしたのだが……。
「……あれだ Σ(゜Д゜)!?」
ふたりを尾行していたレイミアは、焚き火の中に手を突っ込んで答案用紙を奪うと、ダッシュで逃げた。
「なっ……あのガキ、この前の……っ!?」
「追え! 死んでも逃がすな!」
ふたりは慌てて後を追ったが、そこは日頃から人目を忍んで『たんてーかつどう』を行っていたレイミアだ。
走って逃げても追いつかれるだろうと考え、近くの茂みに隠れて追手をやり過ごすことに成功。
決闘会場である魔法修練場へとたどり着くことに成功したのだ。
以上が幼女探偵レイミアの活動顛末であり、この話を聞いたアリアは──
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
オンリーマイウェイな手段で事態を打開したレイミア。
それに対してアリアは……っ?
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