「戦い終わって」
ロレッタ嬢の放った凄まじい水流に押し流されたディアナは、なんともひどい有り様になった。
魔法の杖は半ばから折れ、ドレスは泥まみれ、髪には葉っぱなどが挟まっている。
「待ちなさい……。わたくしはまだ戦えますわ……。だから今すぐ下ろしなさい……」
担架に乗せて医務室へ運ばれて行きながらもなお負け惜しみを述べる根性はすごいが、もう勝負は決している。
──勝者はロレッタ様よ!
──すげえ、まさかの逆転劇!
観客が総立ちになって歓声を上げる中を、僕はひた走った。
勝者であるロレッタ嬢の元へ駆け寄ると、その細い肩に手を置いた。
「やった……やったな! ロレッタ嬢!」
「アリア様……」
「良かった! 見事だ! 素晴らしい一撃だった!」
僕が心の底からの賛辞を贈ると、ロレッタ嬢は頬を紅潮させて喜んだ。
「ありがとうございます、アリア様に褒めていただいて、本当に嬉しいっ。あのっ、わたし、アリア様のアドバイスのおかげで勝てたんですっ。『勝てるぞ』って、『思い切りぶっ放せ』ってっ。あのお言葉のおかげで急に力が湧いて来て……っ」
「あれが聞こえていたのか。すごいな、ロレッタ嬢はずいぶんと冷静だったんだな」
戦場において、自分を見失わないというのは大事なことだ。
相手からのプレッシャー、リスクや恐怖に支配されず普段通りの力を出すというのは簡単そうでいてなかなか出来るものではない。
しかもセコンドのアドバイスを聞いてそれを実行出来るなんて、よほど冷静でなければ出来ないことだ。
「冷静というか……ただ必死だっただけです。わたし、とにかくアリア様のためになりたくて……」
「僕の?」
「ええ、でも今回はダメでしたけど……。実技で勝っても筆記で負けているから、これでもまだ同点で……。推薦人の立場は維持できますけど、ただそれだけで……」
先ほどまでの興奮はどこへやら、急にしょんぼりとするロレッタ嬢。
「そんなことはない。君の頑張りは十分僕のためになっている。君は……」
「お姉さまー! ロレッター!」
僕がフォローしようと口を開いたところへ、バタバタとレイミアが駆けて来た。
片手に何か書類のようなものを持ち、それを左右にぶんぶん振りながら。
「レイミアか。いったいどうしたんだ? そんなに急いで……」
そう言えば朝からいなかったな。
ロレッタ嬢の決闘を一緒に応援するものだとばかり思っていたのに……。
「あのね? あのね? 見つけたの、しょーこっ!」
「しょーこ?」
よくわからぬと首を傾げる僕に、レイミアはぴょんぴょん跳びはねながらこう言った。
「ふせいの、しょーこっ! 見つけたの!」
「………………は?」
あまりの驚きに、僕はしばし言葉を失った。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
まさかのレイミア(ジョブ:探偵)発動!?
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