「実技の決闘」
ロレッタ嬢とディアナの決闘は、魔法訓練場(銃のシューティングレンジのような施設)で行われることとなった。
魔法訓練場は広さ1000平方メートルに及ぶ広大な施設。
逆に言うならそれぐらいの面積が無ければ危険だということでもある。
魔法使い同士の決闘は珍しくもないが、女性同士しかも公爵令嬢同士というのは珍しいということもあって、物見高い生徒たちが観客席を埋め尽くし、通路や階段にまで溢れている。
「しかしまさか、こんなことになるとはな……」
最前列の招待者席で、僕は思わず唸った。
「ロレッタ嬢とディアナが、実技の決闘だなんて……」
「だが、いい作戦なのは事実だ。筆記の負けを取り戻すために実技で勝つ。それならば、もう一回の筋は通る」
ロレッタ嬢とディアナの決闘はあくまで『秋季テストの結果』であって、筆記とも実技とも定められていなかった。
そこを突いて、『魔法実技』のテストでもって再決闘を行うこととしたのだ。
もしかしたら、不正をした上でなお負けた時のことを想定して、あらかじめディアナが仕込んでおいた隙なのかもしれない。
まさかロレッタ嬢がそこを突いて来るとは思わなかったのだろうが……。
「これで勝ってもあくまで同点だが、推薦人の座を失うことはない。ならばロレッタ嬢としても溜飲は下がるだろう」
「それはそうだが……」
僕はなおも迷っていた。
筆記の敗北を知った瞬間のロレッタ嬢の絶望の表情を思い出すと、今でも胸が痛むが……。
「そもそも実技で勝てるのか? ロレッタ嬢が決闘なんて……そんなの……」
ふたりは現在、訓練場の中央にいる。
遮蔽物ひとつ無いだだっ広い空間のど真ん中で、十メートルほどの距離を置いて向き合っている。
片方はディアナ。
紫色の髪を風になびかせながら肩幅に足を広げて立ち、長さ三十センチほどの茶褐色の杖を弄びながらにやにやとロレッタ嬢を眺めている。
もう片方はロレッタ嬢。
同じく杖を構えてはいるが、こちらは完全に及び腰だ。
全身をガクガクと震わせながら、かろうじてディアナの方を見ている。
「ほら、あんなに怯えて……」
義母や義姉たちにいじめられていたことからもわかるように、ロレッタ嬢はそもそもが争いごとに向かない性質なのだ。
手足を使った暴力でなく、それが魔法だったとしても、生身の人間に振るうことは難しいだろう。
僕らと一緒にいる時は明るく元気に振る舞っているが、それはあくまで僕らと一緒にいるからであって……いざひとりになってしまうと……。
「ああ、やっぱり止めた方が……」
居ても立っても居られず立ち上がった僕を、しかしレザードが止めた。
「バカを言え。君はロレッタ嬢の気持ちを無にするつもりか」
「でも、このままやらせて傷ついたりしたら……」
「大丈夫だ、勝てる」
レザードは力強く断言した。
「君は知らないだろうがな、ロレッタ嬢は昔、一度だけ新聞に載ったことがあるんだ。学園に入学して少しの頃だったかな、水の系統魔法の素質と魔法力の高さで、凄まじい成績を叩き出してな。20年に一度の天才と呼ばれていた」
「……ロレッタ嬢が、それほどの才能を?」
魔法実技の授業で見る限り、たしかに彼女は優秀な水魔法の使い手だが、そこまでのものは思えなかったが……。
「だがすぐに、その話題は消えてしまった。どうしてだろうと当時は不思議に思ったものだが、今考えてみればそれは、彼女の母親が亡くなった時期と一致する」
「……っ」
そうか、母親という絶対の庇護者を無くして──
義母義妹にいじめられるようになって、彼女は──
「だから俺は思うんだ。今でも彼女の中には、当時誰も比肩し得なかった魔法力が眠っているのではないかと。気の弱さのせいで出せなかったものが、しかし今なら、アリア嬢のためならば、それが引き出せるんじゃないかと」
レザードは、ロレッタ嬢の背中を見つめている。
アレクに挑んだかつての自分を重ねているような、そんな目で。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
筆記がダメなら実技で、とばかりにディアナとの戦いに挑むロレッタ。
結果は果たして……?
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