「友人として」
オープンエアのカフェの一席。
僕、レイミア、レザードの三人が不思議に思い首を傾げる中で、ロレッタ嬢は怪しげなことをつぶやき続けた。
「しかし、確信が持てたところでではどうすればいいかということですわね……。いきなり……して、たとえ……したとしても、アリア様の性格を考えるとすんなり成功するとは思えませんし……。下手をすると殿下の二の舞になる可能性も……? いやそれどころか……すぎて遠ざけられてしまう可能性すら……っ?」
爪をガジガジと噛みながら、何か悩み事があるようだが……。
「なあロレッタ嬢。いったいどうしたんだ。何か悩み事でもあるなら相談に……」
「あらあら、今日も今日とて騒がしいこと」
僕の質問を遮ったのは、ディアナの甲高い声だ。
「皆さんが穏やかに午後のひと時を過ごしているにも関わらず、お構いなしで大騒ぎ。本当にどういう躾を受けているのかしら。ご両親の顔が見てみたいわ」
両手を広げてカフェの中にいる生徒たちを指し示すと、いつも通り感じの悪いことを言って来る。
今日はパーシアはおらず、ディアナ自身の取り巻き数人しか周りにはいないようだが……。
「それで、今日はなんの用なんだ? ディアナ」
相手にするのもバカらしいので、さっさと用件を訊ねると……。
「残念。今日のお相手はあなたではありませんのよ。今日はわたくしは……」
ディアナがチラリと視線を向けたのは、僕ではなくロレッタ嬢だ。
「そちらの方に用がありますの」
当然だがロレッタ嬢は、訝し気な瞳でディアナを見上げた。
「なんですの。わたしにあなたが、いったいなんの……」
「用件はひとつです。愚鈍なあなたであっても簡単に理解出来ること。──決闘よ」
決闘?
いったい誰が? 誰とするのだ?
皆が首を傾げていると……。
「聞いてるわよ。あなたとレザード殿下が、アリア様の推薦人なのでしょう? こちらはわたくしとレイタングル伯爵のご令息なの。もちろんこのままでも勝機は十分だけれど、出来れば完璧にしておきたいというのが人情でしょう? そこで決闘なのよ。星月祭の直前に行われる秋季テストの得点で争い、下回った方が推薦人を外れるの。どう? 悪く無い話でしょう?」
なんとも自分勝手な話に、一瞬言葉が出なくなった。
要はこういうことだ。
星月姫選びには本人の力も大事だが、推薦人の資質そして政治力も大事とされる。
レザードに決闘で負けたアレクが派閥を抜けたことによりパーシア派閥の推薦人が弱体化しており、バランスをとる意味でもこちらの力を削いでおこうというのだ。
「ロレッタ嬢、無視していいぞ。そんな勝手な話、聞く価値もない」
僕が代わりに断ってやろうと口を開きかけたところを、しかしロレッタ嬢が邪魔をした。
僕の手首を掴むと、強く引いたのだ。
「……なんだ、どうしたロレッタ嬢?」
不思議に思って振り返ると、ロレッタ嬢は顔をうつむけて何ごとかをつぶやいている。
「そうだ、わたしはアリア様の推薦人……。凛々しき御方を支え送り出すひとりの娘……。その健気な活躍に御方は感動し、そこで初めて自らの気持ちに気づくの。……あ、いいわそれ」
ぶつぶつ、ぶつぶつ……。
「そうよ。こちらにレザード殿下がいる分そもそも有利……だけどもし、あちらからディアナがいなくなったとしたら? それはなかなかの活躍ではなくて?」
「おい、ロレッタ嬢。おかしなことを考えるな。そんなことしなくても十分に……」
「いえ、やらせてください。アリア様」
立ち上がったロレッタ嬢の目には、紛れもない炎が燃えていた。
「アリア様の推薦人として、派閥の補佐役として、そして何より……愛姉妹……ではなくっ」
自らの頬を叩いて、ロレッタ嬢は言い換えた。
「ひとりの友人として、戦わせてください」
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
まさかのロレッタの決闘?
いかにも戦いに向かなそうなコの運命が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!
ブクマや感想もお待ちしておりますわ!




