「人生観が変わるほどの衝撃」
ストレスによる発熱そして胸の痛みはなかなか納まらなかったが、そうそう休んでばかりもいられない。
星月姫のこともあるし、あまり皆に情けない姿を見せるわけにもいかないのだ。
「しかし……なんだな。最近……」
休み時間。
オープンエアのカフェでお茶をしている時に、僕は気づいた。
「皆がこっちを見ているような……?」
自意識過剰、というわけではないと思う。
『掃除人』としての癖で、僕はいつも周囲の状況を、特に誰がどこにいて何をしているのかを頭に入れるようにしているからわかるのだ。
カフェにいる生徒たち、給仕に教師。
その多くが、チラチラと僕を見ている。
僕とパーシアの決闘の噂。
皆のプロパガンダ。
理由としてはそんなところだろうが、それだけでもない気がする。
何かふわふわとしたような……明るくくすぐったいような視線を感じるような……?
「それはですね。おそらく周りではなく、アリア様自身の変化なのだと思いますよ」
対面の席に座るロレッタ嬢が、書物から目を上げチラリと僕を見た。
「僕の? 皆ではなく、僕のほうが変わったと?」
「ええ。今までのアリア様であったなら気づけなかったような、周りの微細な変化に気づけるようになったのです。人の気持ちとか、雰囲気とか……。成長という意味で、喜ばしいことではありませんか」
「成長……なるほど」
誰がどこにいて何をしているかだけではなく、感情まで読み取れるようになったということだろうか。
だが実感は無い。
もしそうだとしたらもちろん喜ぶべきことなのだが……。
「……」
僕のことを観察するようにしていたロレッタ嬢が、不意にぼそりと訊ねてきた。
「……アリア様。何か最近、精神的な強い衝撃を受けたことはありませんか? それで人生観が変わるほどの……」
すると急に、レザードが咳き込んだ。
口にしていた紅茶がこぼれ、テーブルの上に盛大にこぼれた。
「わあーっ!? レザードが噴いたっ! 噴いた、噴いた、噴いたあーっ!」
それを見たレイミアは拍子を取って手を叩き、実に楽しそうに煽っていく。
「ごほっ、げほっ、えほっ……。わ、悪かった……っ」
何度も咳き込み、らしくもなく動揺するレザード。
そんなレザードに少し遅れて、僕も気づいた。
そうだ、精神的な強い衝撃を受けたことはあった。
それは僕が今までの人生で経験したことのない種類のもので……。
そう、そのせいで僕は、今さらながら自分が女であることを意識している。
しかも極めて目つきの悪い東洋人の『掃除人』ではなく、神秘的な美しさを瞳に湛えた『お嬢様』であることを。
僕がどれだけ奇行を働こうと、それを補って余りあるほどの美少女であることを。
だからレザードはあんなことを──
いやいや、あれは冗談だから、決して真に受けてはいけない──
でも皆の僕を見る目に熱っぽいものが混じるようになったのは間違いなくて──
だとしたらレザードだってもしかしてひょっとして──
「あれっ? どうしたのお姉さま? お顔が真っ赤だよ? またお熱があるの? お家に帰って休む?」
耳まで赤くなった僕に、レイミアが心配そうに聞いてくる。
「違うんだレイミア。これはそういった系統のあれではないので、とにかく今はそっとしておいてくれ」
「ええーっ? どうゆーことーっ? そういったけいとーのあれってなにーっ?」
「すまない。ちょっと色々と大変で……」
僕の身を案じてぐいぐい来るレイミアの対処に苦慮していると……。
「……ふうん、やっぱりそうなんですのね。そのリアクションだけで確信が持てましたわ」
なぜだろう、ロレッタ嬢の声にいつもよりトゲがあることに僕は気づいた。じとっとこちらを見つめる目に、妙な粘性があることにも。
しかしまさか、その後にあんな出来事が待っていようとは、さすがに夢にも思わなかったのだ……。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
ブルブルブル、めっきり寒くなってきたけど皆様いかがお過ごしかしら。
冷えきった心と体はコタツとお鍋と、当作品でお暖めください。
なーんてね。
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