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「ロレッタ・ジル・ヒーロウ②」

 最近、アリア様の様子がおかしい。

 話しかけてもどこか上の空だし、時々急に顔を赤くしたり、胸を押さえてうずくまったりする。

 風邪を引いて学園を休んで以来だから、まだ完全に治っていないのではないかと思っていたりしたのだけど……あれ? でも……ねえ、ちょっと待って?


 上の空になり──

 急に顔を赤くし──

 時に胸を痛めることがある──


 それってまるで……恋する乙女の懊悩みたいな……?


「待って、落ち着くのよロレッタ。そうと決めるにはまだ早いわ」


 わたしは自分の頬を叩いた。


「そもそも相手が殿方だと決まったわけじゃないでしょう。女性だという可能性も大いにあって、その場合は……ハッ? もしかしてわたしにっ? だからわたしと一緒にいる時に特定の症状が出やすいのっ? だとしたらどうしましょう? この機を逃さず一気に押し切るべき? それともあえて問いたださず、泳がすべき? いずれにしてもこれは絶好の機会よ。絶対に逃がしてはならな──」


「ロレッタ嬢は本当に楽しそうだなあ……ハア」

 

 学園で人気のオープンエアのカフェ。

 わたしの妄想をぶち壊すように、レザード殿下がしみじみと言った。


「もう、なんですの? 人の楽しみを邪魔して……」


 口元のよだれをハンカチで拭うと、わたしは居ずまいを正した。


「それは悪かったな……ハア」


「……なんですの。そのため息」


「ため息? ああ、最近癖になっていてな……ハア」


「こんな人前で、しかもレディを相手にして、あまりにもお行儀が悪いんじゃございませんこと? あなた仮にも、国の第一王子でしょうに……」 


「その通りだな、すまない……ハア」


「……」


 普段とまるで違う、あまりの歯ごたえの無さに驚くわたし。


「あの……何かありましたの? ずいぶんと上の空ですけど……」


 ついこの間、レザード殿下はアレク第二王子を決闘で打ち負かしたと聞いた。

 長年のライバルと決着がついたことで、あるいは燃え尽きてしまっているのだろうか。


「ああ、それはな…………いや、なんでもない」


「なんですのそれは。そんな思わせぶりな……」


「悪いな。こればかりはさすがに言えん」


 レザード殿下はわたしに向かって手の平を向けると……。


「ああー……やはり早まったかなあー……」


 耐えかねたようにテーブルに突っ伏すと、何やらぶつぶつつぶやき始めた。


「もうちょっと距離を詰めてからと思っていたのに、つい興奮して、勢いのままに……あああ~……。あれでは引かれるに決まってるよなあ~……。そりゃあぶん投げられもするわなあ~……」


「もうっ、何を言っているのかわかりませんわっ。とゆうか恥ずかしいのでさっさと体を起こしてくださらないっ?」


 わけのわからぬことをつぶやくレザード殿下を手で起こそうとしたが、さすが殿方、重くて起き上がらない。

 それでもなんとかと頑張っていると……。


「──おい、レザード」

 

 テーブルに大きな影が差した。

 びっくりして振り向くと、そこにいたのはアレクだった。


「……ふん、今日はふたりだけか。アリア嬢はいないのか?」


 キョロキョロと辺りを見渡しているが……。


「あなた如き野蛮のやからが、アリア様になんの──」


「──おい。アリア嬢になんの用だ?」


 今までのうじうじした態度はどこへやら、レザード殿下はガバッと勢いよく立ち上がった。


「なに、簡単な話だ。おまえが急に強くなった原因は、アリア嬢にあるのだろう? 風のような身のこなしと、大地のような力強さ。あの無類の女傑がおまえの師にあたると聞いた。ならば俺もと思ってな」


「バカな、そんなことアリア嬢が許すはずが……っ」


「そんなもの、聞いてみなければわからんだろうが」


 アレクは一方的に言うと、くるりきびすを返した。


「邪魔したな。俺はアリア嬢を探しに行く」


「そんなことさせるものかっ」


 立ち去ろうとするアレクの肩をレザード殿下が掴むが……。


「はあ? させない? それはなんの権限があって言ってるんだ?」


「うっ……?」


 アレクの直言に、レザード殿下は明らかにひるんだ。


「おまえはアリア嬢のただの弟子。それ以上でも以下でもない存在だ。ならば俺がどうしようと自由だろうが」


「うううう……っ?」


 まったくの正論だが、いつものレザード殿下ならなんとか切り返すはず。

 笑顔でエグい言葉を突き刺すはず。

 しかし今日は本当にダメダメで、その場にがっくりと崩れ落ちた。

 アレクはつまらなそうに肩を竦めると、さっさとその場を立ち去った。

 

「本当にどうしたんですか? 今日はおかしいですよ殿下……」


 心配して声をかけた──その瞬間。

 脳裏にガカッと電光が走った。 

 

 最近癖になっているため息──先ほどの意味不明のつぶやき──アレクにすら負ける気の弱さ──レザード殿下のここまでの言動、そのすべてがに落ちた。

 そうだ、この男、アリア様に告白したのだ。

 その結果が思わしくなくて、だからこうして動揺しているのだ。


「これはいけない……っ」


 わたしは大いに焦った。

 ここ最近のアリア様の感情の波。

 なんともらしくない上下動を示すそれらがすべて、レザード殿下によってもたらされた変化なのだとするならば……。

 

「あのアリア様のことだし、そんなに簡単に事が進むとは思えないけど……」


 悩んで、困って、こじらせて。

 それでもって、もうちょっと親しいお友達関係から、とかになるかもしれない。

 お試しでデートして、お試しで手を繋いで、そうこうするうちに情にほだされてしまうことがあるかもしれない。

 アリア様だって、女性ではあるわけだし……。


「これは負けていられませんわね……っ」


 立ち去ったアレクを追おうかどうか悩んでいるレザード殿下の横で、わたしはひとり情熱の炎を燃やしていた。

おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!

西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!


ひさしぶりのロレッタ回。

レザードの独走なんて許すはずもないこのコがどう動くのか、楽しみね。


さて、そんな次回が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!

ブクマや感想もお待ちしておりますわ!

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