「熱を出して寝込んだ」
翌日、僕は熱を出して学校を休んだ。
ベッドに横になっていると、家の者が入れ替わり立ち替わりやって来た。
「大丈夫かいアリア? ああ、どうしよう。あんなに健康なアリアが病気だなんて……っ。医者、医者はまだかいっ?」
過保護なお父様は泣きそうな顔で僕の手を握り──
「お姉さまあぁーっ! 死んじゃやだああぁーっ!」
レイミアはボロボロ大泣きしながら僕に抱き着き──
「お嬢様。もしもの時はこのベスが後を追いますから。向こうに行ってもお世話はお任せください」
ベスがにっこりと壮絶な笑みを浮かべ──
「……いいから、あなたたちは部屋を出てもらえますか?」
30半ばぐらいのメガネの女医さんが、呆れたような顔で皆を部屋から追い出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……コホン、では症状を伺いましょうか」
ふたりきりになった部屋の中で、女医さんは改めて僕に症状を聞いてきた。
皆のオーバーリアクションに疲れたのだろう、こめかみを揉みながら。
「ええと……症状が出始めたのは昨日からです。風邪だと思ったのですが、咳とか鼻水みたいなものはなくて、頭痛も腹痛も無くて……代わりにあるのが熱と、胸の奥が何かこう……ずきずきと痛むような……」
「んー……」
「一日中ずっと、というわけではないんです。ただ、一度そうなるとけっこう長引いて……痛みなどは時おりのたうち回りそうなほどにひどくなって……」
「んー……なるほどー……」
女医さんはふむふむとうなずくと、カルテを脇に置いた。
「率直に聞きましょう。あなたは最近誰かにこう……衝撃的な発言をされたりしませんでしたか? あるいは行動でも構いません。びっくりして天地がひっくり返るようなことをされませんでしたか?」
「衝撃的な……天地がひっくり返るような……」
「ええ。最近の研究では、精神的衝撃が元で病気に似た症状を呈することもあるというのが明らかになっているのです。アリア様の発熱や胸の痛みも、おそらくそういった類のものではないかと……」
「精神的衝撃……」
なるほど、ストレスのことか。
「もうめんどくさいので率直に聞かせていただきますが」
女医さんは大きく目を見開くと──
「最近気になる殿方とか、いらっしゃったりしませんか?」
「…………っ!!!?」
思ってもみなかった質問に、心臓が止まりそうになった。
「え? あ? え? 今なん……なんて?」
「最近気になる殿方とか、いらっしゃったりしませんか?」
「……うぐうううっ!?」
突然、胸が痛くなった。
数万本の針で貫かれたような、鋭い痛みが走った。
あ、これがストレスっ?
今僕は、女医さんに衝撃的な言葉を連発されてストレスを受けているっ?
「その人のことを考えるだけでいっぱいいっぱいになってしまったりするような、あるいは夜も眠れなくなったりする人が、いたりしませんか?」
「……ああああうううううっ!?」
耐え難いほどの痛みが胸に走り、僕は思わず悲鳴を上げた。
「……うふふ、どうやら図星のようですね」
なぜだろう、女医さんは嬉しそうに頬を緩めた。
「意外とそういう患者さん、多いんですよね。特にお貴族様の女の子に多いんですけど」
「……ぼ、僕と同じような症状の人が他にも?」
「ええ。でも、あなたほどのは見たことありませんけど……。ま、それだけ純粋だということなんでしょうけども……」
女医さんは目を光らせると、ベッドの上に乗って来た。
僕に覆いかぶさるようにして、ぐいぐいと距離を詰めて来た。
「え、ちょ、なにを……?」
「症状を緩和するためにも、具体的なお話を聞かせてもらいましょうか」
「え? 具体的な話……?」
「そうです。特別な対処法の確立されていないこの症状には、『誰かに打ち明ける』というのが最も効果的な治療となるケースが多いのです」
「その、打ち明けるというのは……?」
「なにも難しいことはありません。あなたにそこまでの衝撃を与えるに至った特定の人物あるいは事件について、余すところなく話せばいいのです。さあ、それでは張り切ってどうぞ」
戸惑う僕に、女医さんは鼻息も荒く訊いてきた──
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
珍しくも熱を出して寝込んだアリア。
その病状はどうにもおかしくて……?
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