「僕は逃げ出した」
「え……」
それは突然の出来事だった。
あまりにも突然すぎて、何が起こっているのかわからないほどに。
ええとたしか……レザードがアレクに勝って……長年の宿願を果たして……?
そうだ、そうだ。
それからたしか、こう言ったのだ。
もしレザードが今後僕に勝てるようなことがあったならば、その時は──俺と結婚してくれないかと。
うん、そうそう。
たしかそのはず。
そのような意味のことをレザードは言って、今も僕のことを至近距離から熱っぽい目で見ていて……。
……。
…………。
………………ん?
………………んんん?
「はあああああーっ!?」
あまりのことに、僕は思わず大きな声を出した。
「な、な、な、何を言ってるんだ君は!?」
「なんだ、聞こえなかったのか? 頼むから俺と……」
「違う! 聞こえなかったわけじゃない! 聞こえた上でそれはおかしいだろうと言ってるんだ!」
「何もおかしくはないだろう。俺は君のことを……」
「いやいやいや、僕だぞ? 他ならぬこの僕だっ。悪役令嬢でっ、嫌われ者でっ、口より先に手や足が出る女でっ、教養もろくになくてっ。取り柄と言えば見た目ぐらいしか他にないこの僕を、こ、事もあろうに君がっ……君とっ……ケッ……ケッ……ケコッ……」
「落ち着け。鶏みたいになってるぞ」
「これが落ち着いていられるかっ!」
あまりにも恐ろしい想像図に、僕は震えた。
この僕が男性と、事もあろうに第一王子と結婚?
それってつまり、お姫様になるということじゃないか。
未来の国王と目されている人物のお姫様にって、それってつまり、いずれはお妃様になるということであって。この僕が頭に冠を戴いて……ファーストレディとして国民に接して……え? その腕に赤ん坊を抱いてたりして? レザードの血筋の濃い金髪の可愛い女の子で……? でもちょっぴり僕の血が入ってて、目つきに険があったりして……って違う!
「……はっ!? ぼ、ぼ、僕は何を考えてるんだ!? なんて……なんて恐れ多い事を……!?」
頭を抱えてわなわなと震える僕に、レザードが心配そうに声をかけてきた。
「だ、大丈夫かアリア嬢? 何もそこまで動揺しなくても……」
少年の面影を残しつつも男らしく引き締まりつつあるレザードの顔が、すぐ近くまで迫る。
度重なる戦闘訓練で傷だらけになった男らしい手が、僕の肘を掴もうと伸びてくる──
「こら!」
僕は反射的にレザードを叱ると、その手首を掴んでぶん投げた。
「え──?」
そもそも予想していなかっただろうし、仮に予想していても防がれるような未熟な技じゃない。
レザードの身体はくるり宙を舞うと、背中から地面に落ちた。
「ぐっ……お……っ!?」
息が詰まったのだろう、背を丸めて悶えるレザードに悪いなとは思いつつも、僕はその場を後にした。
「バカ! バカバカバカ! レザードのバーカッ!」
子供みたいに悪口を言いながら、逃げるように走り去った。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
レザードの告白、からのアリア逃亡。
これにはびっくりしたけど、しょうがない部分もあるかもね。
なにせアリアは好いた惚れたの世界からは隔絶されて生きて来た女の子だから。
でも、どうするのかしらね。いつまでも逃げてはいられないのだけど……。
さて、愛されて困るアリアの反応が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!
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