「達成不可能?」
「ふうーん……ふうーん……なるほどね。お姉さまの『ボス』が厳しい人なのね?」
僕の説明に、ふむふむと腕組みしてうなずくレイミア。
「お姉さまがこみ……コミュ障(?)だから、それを治すために『友達』を作れというのね?」
「明言はしていなかったがな、おそらくはそういう狙いだったんだと思う。次の『任務』で必要になるんじゃないかな」
学校に潜入してターゲットを始末しろとか、そういった類の。
今までやったことのない、かなり難易度の高いやつだ。
「……じゃあ、『友達』が出来たら『任務』達成? お姉様は『向こう』へ帰っちゃうの?」
両手を後ろに組んで体を揺すって、チラリと寂しげな表情を覗かせるレイミア。
「いや、おそらく無理だろう。何せ『向こう』の僕はすでに死んでいるからな。もう帰るべき肉体が無い」
「帰れないのに『任務』……?」
こてん、と首を傾げるレイミア。
「言いたいことはわかる。だが、どれだけ姿が変わろうと、世界すら違っても『任務』は『任務』だ。達成せずに放棄するなどということは許されない」
「お、おおー……っ、『おそーじ屋さん』ってすごいっ、なんかすごいっ」
僕の勢いに飲まれたのだろう、目をまん丸く見開きながらパチパチと拍手をするレイミア。
「ともかくそういうわけなんだレイミア。友達作りの『任務』を果たすためにも、君の力を借りたい。レイミアならそういった分野は得意だろ?」
「うん、だいせーかいっ。レイミアそーゆーの得意だよっ。お姉さまも大船に乗ったつもりでいてよっ」
薄い胸をドンと叩くと、レイミアは自信満々に宣言した。
たしかにこの娘ぐらいの容姿とコミュニケーション能力を持ってすれば、人の心を開くなど容易だろう。
別にうらやましいとは思わないが、この状況では頼りになる。
せいぜい利用させてもらうとしよう。
「じゃあまずはメイドのお姉さんたちからねっ。さあ行こうすぐ行こうっ」
言うなり、レイミアは僕の手を握って走り出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レイミアは、家中のいたるところで働いているメイドたちのところへ僕を連れて行った。
まずレイミアが話しかけ、メイドが笑顔で振り向いたところで僕と代わり、仕事ぶりを褒めるという作戦だ。
褒められて悪い気がする人はいないし、ちょっとでも好感を持ってくれればあとはガッといける。
とのことだったが……。
レイミアだと思って油断して振り返ったところにアリアがいるのは、多くのメイドたちにとってホラー映画的な恐怖だったらしく、ほとんど全員が顔を強張らせ、ある者は悲鳴を上げた。
自分が何かミスをしたのではないか、あるいは何か無理難題を吹っ掛けられるのではないかとパニックを起こす者が続出した。
だが、そこでくじけていては始まらない。
「君、いい仕事をしているね。その調子で励んでくれたまえ」
褒め言葉を口にし、ついでに笑顔を浮かべると──
「ひっ……!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 雑な仕事ですみませんでしたあああーっ! わたしもっと精進しますうううーっ!」
悪魔降臨の瞬間を見たみたいな顔をしたメイドたちは、口々に謝罪の言葉を口にしながら逃げていった。
「ううむ……どうしてなんだ? なあレイミア、僕の話し方に何か不備でも……」
「……んーとね、話し方というよりは笑顔のほうかな。あのね、レイミアは思うんだけど、もうちょっと練習してからにしたほうがいいかもね」
あのレイミアですらが苦渋の表情を浮かべるほどにひどいらしく、僕はいささか落ち込んだ。
唯一お付きのベスだけは逃げずにいてくれたが、顔を真っ赤にして口元をもにょもにょさせていたので、僕の事を怖がっていたのは間違いないだろう。
「うう、難しい……。この『任務』は達成不可能なのでは……?」
「大丈夫だよお姉さま、これからこれからっ」
落ち込んだ僕を気遣ったのだろう、レイミアはぽんぽんと僕の腕を叩いて慰めてくれた。
「明日も頑張ろうっ、レイミアも色々考えてみるからっ」
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
アリアは笑顔が苦手なの。
意識すればするほどにガチガチに硬直しちゃって、相手を怖がらせちゃう。
でも大丈夫。レイミアとの交流が、彼女を優しく解きほぐしてくれますからね。