「必要な戦い」
皆のサポートに応援──
連日増えるファンに取り巻き──
コミュ障の虫が騒ぎ出して無性にひとりになりたくなった僕は、皆の監視の目を逃れて休み時間に校舎裏に広がる森の中を歩き回っていた。
「ああ、人けが無いって素晴らしい……」
巨額の資金が投入されている学園の敷地だけあって森は広く、ちょっとすると遭難しかねない規模のものだが、様々な環境に適応するサバイバルトレーニングを積んだ僕にとってはもちろん問題にならない。
「小鳥のさえずりにそよぐ風、木の葉の擦れる音……。心癒される……」
久々の解放感が嬉しくて、スキップでも踏まんばかりの勢いで歩いていると……。
「小川のせせらぎに人の話し声……ん? 人の話し声?」
おやと思って立ち止まった瞬間──
「決闘だ!」
聞き捨てならないフレーズが耳に飛び込んで来た。
「……いったいなんだというのだ、こんなところで」
木の陰から覗き込むと、森の中の開けた場所に二十人ほどの生徒が集まっていた。
中心にいるのはふたりの男子。
ひとりはパーシアの取り巻きである第二王子アレクで、もうひとりは……。
「なんだ、レザードじゃないか」
しかもいつものレザードじゃない。
顔を歪め、アレクをにらみつけるようにしている。
拳を震わせ、今にも殴りかかってしまいそうだ。
「……そう言えば、あのふたりは仲が悪いのだったな」
第一王子であるレザードの母は現王妃。
第二王子であるアレクの母は寵姫で、すでに亡くなっている。
ふたりは同い年だが王位継承権者としてはレザードのほうが上で、それ故に互いにいがみ合っている。
──レザードとアレクはそりゃあもう仲が悪いの。顔を合わせれば罵詈雑言、条件が揃えばすぐ決闘パートに移行しちゃう。
ケンカの実力はアレクの方が上でね、どう頑張ってもレザードは負けちゃうの。
でも、そこが付け目なのよ。
公衆の面前でけちょんけちょんにされたレザードを優しく慰めて、抱きしめてね。
そしたらもうイチコロなわけよ。
えへっ、えへっ、えへへへへへ……っ。
チクリとした頭痛とともに、ジェーンの気味の悪い笑いやレザードとアレクの関係性を思い出した。
この決闘の結果が、どうなるのかも。
僕と同じ情報を持っているパーシアは、当然のように取り巻きの中からふたりのいがみ合いを見つめている。
口元に手を当て、表面上は怯えているように見えるが、目だけが三日月状に笑みの形を作っている。
「……」
さらに観察を続けると、周りにはパーシア派しかいないことに気がついた。
僕派……というか、レザードの味方になってくれる者が誰もいない。
しかも──
「……あれは?」
パーシア派の男子生徒の中に、石や木の枝を握り込んでいる者が複数いる。
「そうか、邪魔をする気なのか」
僕はピンときた。
決闘が始まりアレクが不利とならば、助太刀として投げ入れるつもりなのだ。
決闘後にレザードがそのことを訴えても、公正な目撃者は誰もおらず、負け犬の遠吠えとばかりに嘲笑されるのがオチと。
「……ゲームのルートを把握した上で、それに驕らずに全力で叩き潰しに来たわけか。考えたものだな。だが……」
取り巻きたちをかき分けかき分け、僕は輪の中心に足を踏み入れた。
「……貴様は、アリアっ?」
僕の登場にアレクが声を荒げ、パーシアが不快そうに顔をしかめた。
「アリア嬢、どうしてここに……?」
レザードもまた、驚いて僕を見つめた。
「無用な決闘を止めに来た」
「……なんだと?」
「レザード。これは仕組まれた罠だ。取り巻きたちの中にパーシアの意を汲む者がいて、そいつらが……」
状況を説明しようと口を開く僕の目の前に、レザードが手をかざした。
「いいんだ、アリア嬢」
「はあ? よくなんかないだろう。相手の策略のままに戦わされて、敗北して、それでは納得が……」
なおも言い募ろうとする僕だが、レザードは自らの唇の前に人差し指を当てて黙れと示唆した。
「?????」
混乱する僕に、レザードはこう言った。
「アリア嬢。頼むから聞いてくれ。そしてどうか、止めないでくれ」
どこまでもまっすぐ、真剣な目で。
「この戦いは、俺にとって必要な戦いなんだ」
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
コミュ障の虫を患わせたアリアが森の奥で出会ったのは?
アリアの制止も無視して決闘に挑むレザードの真意が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!
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