「決闘をいたしましょう」
僕がパーシアにケンカを売ったことは、憤慨したレイミアによって秒速でバラされた。
バラした相手はレザードとロレッタ嬢とベス。
僕のことを心配して探していたのだという3人は当然の如く怒り、これ以上危ない真似をしないよう大きな大きな釘を刺された。
学園にいる時はレザードかロレッタ嬢が、自宅にいる時はレイミアとベスが常に傍にいるという監視体制まで築かれた。
そんなことしなくても、向こうが改めて仕掛けて来ない限り僕から手を出すことはないと何度も説明したのが、無駄だった。
「反撃というレベルじゃなくなりそうなのが問題なんだ、君の場合」
レザードはため息交じりで首を横に振り。
「牢獄に繋がれるアリア様なんて、見たくありませんから」
ロレッタ嬢は涙目で僕の袖をぎゅっと掴み。
「大丈夫です。お屋敷にいらっしゃる時はこのベスが四六時中……四六時中……っ?」
ベスは変に興奮し。
「レイミアも見張ってるからねっ。張り込みは探偵の基本だからっ」
レイミアはフンスフンスと鼻息荒い。
というわけで、僕は4人の監視下に置かれることとなった。
もちろん、僕が本気になれば抜け出せない網などこの世に存在しないのだが、それはそれであとあと面倒になりそうだし……。
「やるなら一気に、ここぞというタイミングでだな……」
「もうーっ、ダメだって言ってるでしょーっ!」
「おっとしまった、つい本音が……」
などというやり取りをしていたある日のことだった。
昼休み、皆で中庭にいるところへパーシアとその取り巻きたちがやって来た。
「……ふん、来たか」
「……お揃いで、なんの用でしょうかね」
レザードとロレッタ嬢が、かつてなく真剣な表情でその前に立ちはだかった。
「アリア様は後ろに。どう煽られても、絶対に手は出さないようにしてくださいましね?」
「じゃあ足ならいいとか思うなよ? すべての攻撃は禁止だからな?」
ふたりはいったい、僕をなんだと思っているのだろうか。
「大丈夫っ。お姉さまはレイミアが抑えてるからっ」
そう言うなり、レイミアが僕の腰に抱き着いてきた。
「あのな、君たち。人をそんな狂犬みたいに……」
「──決闘をいたしましょう、アリア様」
レザードとロレッタ嬢の間をするりと抜けたパーシアが、僕に近づくなりそう告げてきた。
「ん? 今なんて?」
「決闘しましょうと言ったのです。アリア様、他でもないこのわたしと」
「いや、それってどういう……」
「理由はおわかりでしょう。あなたとわたしの関係は、もう容易には修復しかねる状態まで来ております。言葉でどうとか、そういった状況ではなくなっている」
パーシアはちらりとレイミアを見ると、また僕に視線を戻した。
「……面倒なことはやめて、直接対決で決めようというのか?」
「ええ。具体的にはこの秋に行われる星月祭で。投票を持って選出される星月姫、学園一の女性に贈られる冠をどちらが頂くか」
「……勝てばどうなる?」
「すべてを得る。名声も、栄誉も。皆さまの愛情も」
「……負ければどうなる?」
「その逆です。すべてを失い、ひとりになる」
パーシアは、恐ろしい事をあっさりと告げた。
「あなたもご同類ならおわかりでしょう? 本来ならば、これはわたしのものだった。わたしは単に、あるべきものをあるべき場所に戻していただきたいだけなのです」
今この瞬間、パーシアは自分が転生者であることを認めた。
その上で、なぜ僕と決着がつけたいのかも。
「パーシア。言っておくが……」
「悪役令嬢であるあなたが、そこのおふたりの心を射止められるわけがない。99%あり得ない。おそらく何かしらのチートを使ったのでしょう? そんなのズルです、不公平です」
「ねえねえお姉さまたち、いったい何をお話ししてるのっ?」
不思議そうな顔をしたレイミアが、僕とパーシアの話に割り込んで来た。
「あくやくれーじょう? ちーと? それってどうゆー意味?」
「あー……えーとだな、これはパーシアの地元特有の訛りというかだな……」
レイミアの質問にどう答えていいか、頭を悩ませていると……。
「このコにしたって、本来ならば…………のに…………なんて…………あり得ない……。ゲームの法則が乱れている……」
ぶつぶつと何ごとかをつぶやいたかと思うと、パーシアは改めて僕に人差し指を突きつけてきた。
「ともかく、わかりましたわね? アリア様。すべては星月祭で」
一方的に挑戦状を叩きつけると、パーシアは状況を見守っていた取り巻きたちと共に去って行った。
「…………」
その後ろ姿を見送りながら、僕は思った。
決闘に敗北すれば、すべてを失う。
本当にそんなことが起こり得るのか?
今こうして傍にいる友人たちが、たとえばレザードが、たとえばロレッタ嬢が、僕が敗北したその瞬間からパーシアの取り巻きになる。
そんなことがあり得るのか?
ここはたしかにゲーム世界であり、皆はゲームのキャラクターだ。フラグだってきちんと存在する。
ならばゲームとしての強制力もまた、強く人に働きかけるのだろうか。
スイッチを切り替えるみたいに、心までも切り替えてしまうのだろうか。
その人と過ごした事実も、大事だと思った記憶までも無視して。
そしてもし、すべてがパーシアの言う通りになってしまったら。
敗北してすべてを失い、ひとりになってしまったら。
その時僕は、いったいどうしたらいいのだろうか……。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
さて、第4章突入よ。
この章ではパーシア派との本格的戦いと、いよいよアリアの恋愛を描いていくわ。
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