「なあ、レイミア」
帰り道、僕はレイミアにさんざん叱られた。
──ダメだよ、パーシアをいじめちゃ。
──ダメだよ、怒っちゃ。
──ダメだよ、人を傷つけちゃ。
今まで見たこともないような真面目な顔で、諭すように。
子供のくせに、中身は大人のこの僕を。
叱られながら僕は、こんなことを思っていた。
レイミアが、まるでエイナお母様のようだと。
アリアの記憶の中にあるお母様の、怒った姿にそっくりだと。
とても不思議だった。
レイミア自身はお母様と話したことすらないのに。
一挙手一投足が、どんどん彼女に似ていくことが。
とても不思議だった。
僕には家族がいないのに、お母様を懐かしく思うことが。
彼女がもうこの世にいないのを、切なく悲しいと感じることが。
これはいったいどういう気持ちなのだろう。
僕はいったい何者で、どこへ行こうとしているのだろう。
あとからあとから疑問は沸き、それはなかなか止まらなかった。
「もうっ、お姉さま聞いてるっ? 今日はレイミアは怒ってるからねっ? もうぷんぷんなんだからっ!」
怒りを態度で示すかのようにレイミアは両手を大きく振り、僕の前を大股で歩いている。
「レイミア……」
「……」
「なあ、レイミア……」
「もう、なにっ!?」
僕の呼びかけに、レイミアはくるりと振り向いた。
手を腰に当て、僕のことをにらみつけてきた。
怪我や心の痛みはまだ消えていないだろうに、自分よりも僕のことを考えてくれるレイミア。
怒りたくなんてないだろうに、僕のために怒ってくれるレイミア。
その幼気な姿にぐらりと来た僕は、発作的にその小さな体を抱きしめた。
「……んんんんんっ!?」
まったく予想していなかったのだろう、僕に抱きしめられたレイミアは、変な声を出して棒立ちになった。
「ど、どうしたのお姉さま? レイミア、言い過ぎた? 悲しくなっちゃった?」
僕が泣いていると思ったのだろう、慌てて背中を擦り、慰めてくれた。
「ごめんねっ? そんなに悲しむとは思ってなくて……」
「そうじゃない。そうじゃないんだレイミア……」
レイミアの頬に自分の頬をくっつけながら、僕は頭の中で繰り返した。
決して口には出せぬ、一連の事件の中で初めて抱いたその思いを。
──なあ、レイミア。
もし僕が殺しを生業としていたと知ったなら、君は僕を軽蔑するだろうか。
あるいは探偵として、逮捕するのだろうか。
──なあ、レイミア。
それが例え報復によるものだとしても、君は僕を叱るのだろうか。
怒り、蔑み、嫌うのだろうか。
焦ったレイミアが盛んに腕を叩いてくるまで、ずっと。
ずっと、繰り返していた。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
これにて3章終了、激闘の4章に突入するわよ。
自らの存在に疑問を持ち始めたアリアともども、よろしくね。
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