「レザード・ウル・ヴァリアント②」
「あら、ずいぶんとお早いお着きですわね。レザード殿下」
「君こそ、まだ朝の内だぞ? ロレッタ嬢」
ストレイド家の屋敷の馬車寄せで、俺とロレッタ嬢はバッタリ顔を合わせた。
しかも訪問時間としては常識外れな朝9時前。
「そりゃあ早くもなるでしょう。あんなことがあっては」
「……ま、それについては同意だな」
俺たちは深くうなずき合った。
昨日のあの出来事。
レイミアが突き飛ばされて怪我をし──
レイミアがわんわんと泣き叫び──
「あの瞬間の、アリア様の表情……」
ロレッタ嬢が、怖気を振るうようにしながらつぶやいた。
「ああ……あれはなかなか凄まじいものだったな」
「人のひとりふたりは殺してしまいそうな……まさか、そんなことはないと思いますけど……」
「俺も同じことを思ったよ。そして実際、彼女には不可能ではないことが怖いんだ」
日々特訓を受けている身だからこそわかる。
彼女の技術と身体能力を持ってすれば、人のひとりやふたりは造作なく殺してしまえるだろう。
例え何人だろうと、例え武器を持っていようと、例え女性だったとしても。
もちろん、出来るからといって普通はやらない。
それが王国法の下に生きる人間というものだし、彼女だってその辺は理解している。
だが、今回の被害者はレイミアだ。
最愛の妹をああいう形で傷つけられて、黙っているとは思えない。
腕の一本……もしかしたら二本ぐらいは折るかもしれない。
そして、問題は相手だ。
世にも珍しい光魔法の使い手で、学園の派閥の首領で、その下には多くの貴族子弟たちが集っていて。
下手をすれば、法の裁きを受けることにもなりかねない。
「ロレッタ嬢は、レイミアの傷をどう見た?」
「深さは大したものではありません。おそらく今頃はかさぶたが張っているだろう浅いもの……。精神的な傷の方はわかりませんが、もともと気丈な方ですし、ずっとそうなアリア様がついていらしゃったので心配無いとは思いますが……」
「それよりもむしろ、アリア嬢のほうが問題か」
「ええ……」
「レザード殿下! ロレッタ様!」
俺たちがため息をついていると、アリア嬢のお付きのメイドであるベスが出て来た。
パタパタと小走りで、焦った様子で……これは何か、嫌な予感が……?
「すいませんっ。ずっと部屋の入口を見張っていたのですが、アリアお嬢様がまさか……」
窓から外に出るだなんて、とベスが告げると──
『…………っ!!!?』
俺とロレッタ嬢は、ビクリと身を震わせた。
「これは……これはいけませんわ……」
「ああ、まったくだ。今日は天気が良いだろうと出がけに爺が言っていたが……」
快晴の空を見上げると、ロレッタ嬢が震える声で言った。
「所により、血の雨が降るかもしれませんわね……」
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
レイミアの怪我に怒り心頭のアリアは一体どこへ?
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