「宣戦布告」
レザードとアレク。
ロレッタ嬢とディアナ。
僕とパーシア。
一触即発の状況の中、一番先に動いたのはパーシアだ。
「あのー……皆さん、ケンカはダメですよー? 誇り高き王立学園の生徒同士、仲良くしないと……ね? ね?」
にらみ合う皆の間にわたわたと慌てたように割って入ったかと思うと、険悪な雰囲気を解消するためだろうにっこりと笑顔を浮かべ……。
「でも、泣いてるじゃねえかおまえ」
「そうですよパーシアさん。きっとこの方々に意地悪をされたのでしょう?」
え、と思ってパーシアの顔を見やると、たしかに目から水滴が垂れている。
皆の視線を感じたのだろう、パーシアは慌ててハンカチで目元を拭うと、何ごともなかったかのように微笑んで見せた。
「こ、これは違うんですよっ。さっき石ころにつまずいて転んじゃって、それで……。ね、わたしったら本当にドジですね」
コツンと自らの頭を叩いて舌を出し、ドジっ娘アピールをするパーシア。
いやいやいや、さっきまで全然そんなそぶりもなかったじゃないか……。
「おいおい、こんな奴らを庇ったって意味ねえぞ?」
「そうですよパーシアさん。あなたがいくら真心を示したところで、本当に性根の腐った人間というのは軽々しく改心したりしないものです」
パーシアがこの場を収めようとして嘘をついていると判断したのだろう、アレクとディアナは敵意ある視線を僕らに向けて来た。
「おい、侮辱するにもほどがあるぞ、おまえたち」
「そうですわ。いくらなんでも、その発言は許せません」
レザードとロレッタ嬢もいきり立ち、あわやケンカの始まりかといったところで……。
「ダメですよ、ダメっ。ケンカはダメっ。アレクさんもディアナさんも、めっですよ、めっ」
ふたりの胸を叩くふりをして黙らせると、パーシアはくるりとこちらに振り返った。
「ごめんなさいね、皆さん。アレクさんもディアナさんも正義感が強すぎて……。いつもはこんな感じではないんですけど……。今のやり取りが誤解だということはわたしが後ほど説明して、改めて謝罪にも参りますから、今日のところはご勘弁ください。本当に申し訳ございませんでした」
ぺこり頭を下げると、パーシアはふたりの背中を押すようにして去って行く。
「……あ、そうだ」
途中でふと思い出したようにポンと手を打つと、パーシアだけが足を止めた。
「ね、アリア様。また今度、ゆっくりお話しましょうね。美味しい紅茶を飲みながら。わたし、お菓子作りが得意なんで、良かったらご馳走させてくださいな」
いたずらっぽい笑顔を浮かべたパーシアが、僕に向かって歩み寄って来た。
反射的に身構える僕の耳元に、ひょいと顔を寄せると……。
僕にだけ聞こえるような声で、こう囁いた。
「第一王子と公爵令嬢を侍らせて、『悪役令嬢』が『メインヒロイン』気取りか? 笑わせるなよ」
「──っ?」
「奪い取ってやる。おまえの持つ、そのすべての光をな」
その瞬間──僕にだけ見える角度でパーシアは、悪魔のような笑みを浮かべていた。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
まさかまさかのパーシアの発言、その時アリアは!?
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