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「その女、パーシア・オーガン」

 翌日から、僕は闇魔法の特訓を始めた。

 もちろん覚えたてなので、すぐに上手くはいかなかった。

 標的(まと)を外しては魔法訓練場(銃のシューティングレンジのような施設)の地面や壁にたびたび大穴を開けるので、受付のお姉さんに何度も怒られた。


 だが僕は、くじけず続けた。

 学園が休みの日にはストレイド家のトレーニング場(例の伐採場)でも特訓を行った。

 日々の基礎練習やレザードのトレーニングと並行してのそれはさすがに酷なものだったが、一日たりとも休まなかった。


 結果として、精度はそれなりのものになった。

 一発ごとの消耗は激しいし射程もせいぜい10メートルぐらいだが、威力だけなら下手なロケット砲よりもあるだろう。

 実戦を考えるなら接近して殴ったほうが遥かに早いが、威嚇ぐらいの役には立つはず。この先なにかあった時の選択肢には加えていい。


 などと、僕が特訓の日々を回想していると……。


「とゆーわけでねっ。やみ魔法が使えるすごいってゆーのとっ、それをすぐこんとろーるできるようになったのがすごいってっ。みんな褒めてたよっ」


 中庭に敷いたレジャーシートの上で、ベスが作ってくれたスコーンに生クリームをたっぷりつけて頬張りながら、レイミアがにんまり誇らしげに笑った。


「たしかに素質も抜群ですけど、何よりアリア様の努力がすごかったですからねえ……」


「まったくだ。今にも倒れそうな顔をして、それでも止めないのだから……」


 レザードとロレッタ嬢が、ベス特製のブレンドティーを飲みながらしみじみと同意した。


 さて、そんなこんなでレイミアの『ちょーさ』結果を拝聴し、お昼休みも終わりという頃。

 皆で後片付けをしている最中のことだった。


「……なあ、アリア嬢」


 レザードが、僕にだけ聞こえるような声で聞いてきた。


「以前から思っていたんだが……。どうして君は、そこまでして強くなりたいんだ?」


「どうしてとは?」


 質問の意味がわからず首を傾げていると……。


「君は今でも十分強い。それこそ軍の将軍クラスを相手にしたっていい戦いが出来るだろう。にも関わらず努力をやめない。もちろん強くなろうとする努力それ自体が尊いものだということはわかるが、それにしたって君は女性ではないか」


「……」


「生物学的に見ても、女性よりは男のほうが戦いに向いているものだろう。本能的にも、男は女性を守ろうとするものだろう。君にはその……輝くような美貌があるし……す、少しは誰かに、守ってもらおうという気にはならないのか?」


「……」


「その……あくまでこれは、一般論としての話であってっ。俺個人の嗜好がどうとかいう話ではないっ。それだけは申し添えておくからなっ?」


 どうしたのだろう、レザードは顔を真っ赤にしながら言い訳じみたことを繰り返した。


「……ふむ。まあたしかに、普通の女性とはそういうものなのだろうな。男性と結ばれ、子を成し、家庭を守る。普通はそれでいいのだろう」


 僕は深くうなずいた。


 だけど僕には、そういった生活は許されなかった。

 家族も無く、仲間も無く、産まれた時より周囲にあったのは死と鉄血のみで、守ってくれる者などひとりもいなかった。

 食うために戦うことを繰り返し、無数の屍の上に生き残り、やがて『ボス』に見いだされるまで、満足に屋根の下で眠れたことすらなかったのだ。


 もちろん今は違う。

 僕にはストレイド家があり、お父様やレイミアがいて、ベスやメイドの皆がいる。

 あまりいい関係ではないけれど、ヘラお母様だっている。

 いるのだけれど、万全ではない。


 この世には、破滅フラグが存在する。 

 それは運命のように理不尽に、僕を地獄のどん底へ突き落そうとしてやって来る。

 今はまだ自分の力ではねのけられるレベルだが、そのうちもっと強いフラグが現れるかもしれない。

 そうなった時に家族を巻き込むわけにはいかないし、頑張ったけどダメでした、では許されない。


 魔法の存在は、僕にとってはすごく大きなものなのだ。

 アリアとの繋がりであり、また自分自身にとっての新たな命綱になってくれるかもしれないから。


「なあレザード、僕は普通じゃないんだ。特別な星の下に産まれた。産まれてしまった。だから努力を止めることは出来ない。……止めればきっと、すべてが終わる」


「すべてが終わる……?」


 レザードはいぶかしげに眉をひそめた。


「ええとだな……もっと簡単に言うと……」


 ちょっと大げさに言い過ぎただろうか。

 反省した僕が、どう言い換えようか悩んでいると……。


「──あら、そこにいらっしゃるのはアリア様ではございませんか?」


 突然声をかけられ、心臓がドキリと跳ねた。

 振り返ると、そこにいたのはひとりの女の子だ。


 きらきらと陽光を反射する金色のロングボブ。エメラルド色の大きな瞳。 

 風にひるがる水色のドレスから覗く、のびやかな四肢。

 青空の下でひまわりを抱いている姿がよく似合う健康美少女──パーシア・オーガンがそこにいた。

おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!

西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!


アリアの回想から始まるのは、最大のライバルと目されるパーシアとの出会い。


さて、そんなアリアの今後が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!

ブクマや感想もお待ちしておりますわ!

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