「アリアとの共通項(回想)」
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
こちらは、レイミアの語る調査内容……の合間にアリアが思い出した、回想シーンになりますわ。
この世界には、『魔法』が存在する。
それは映画やドラマで見かけるような超常の力であり、科学や医学、軍事など様々な分野で有効活用されている。
貴重であり、希少であり、神様に与えられたギフトという解釈がなされており、素質があるだけで、財産や身分に対する手厚い保証が与えられる。
その結果として産まれたのが、貴族と呼ばれる特権階級だ。
逆に言うならば、魔法が使えるからこそ貴族は貴族たりえているわけだ。
だからこそ、お父様が平民であるエイナお母様を娶った時にはとんでもない騒ぎになった。
貴族の血筋を絶やすつもりかと、親族一同から猛バッシングを受けたそうだ。
最初に産まれたアリアに魔法の素質が無いと判明した時には、エイナお母様を追放もしくは暗殺しようという動きすら起こった。
次に産まれたレイミアには幸いにも魔法の素質があり、お父様の面目は保たれたものの、残念ながらその時にはエイナお母様はこの世のものではなかった。
死因は定かではなく、もしかしたらという噂は未だに消えない。
物心ついた時から家族のいない僕にはわからないけれど、それはけっこうなダメージだったのではないだろうか。
定期的にジクジクと痛む、しかも薬では治せないタイプの。
アリアがひねくれた性格に育ったのも、案外その辺に原因があるのかもしれない。
ただのわがままではなく、やむを得なかったタイプの。
もちろん、今となっては確かめようもないのだけれど……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それはともかく、新学年に入って初めの魔法概論の授業でのことだった。
今後の専攻を選ぶために、改めて三解式──魔素のこもった水を飲み干し、所定の呪文を唱えた後に杖を振るうことで魔法の素質を確かめる儀式──を行った時のことだった。
アリアに素質の無いことを知っている僕が、なんの気負いもなく杖を振ったところ……。
「えい」
──ピシャアァァァン!
世界樹の枝より切り出したとされる長さ三十センチほどの硬い杖を振り抜くと、先端から黒い稲妻のようなものが迸った。
黒い稲妻は大気中にギザギザの線を描くと、威力測定のために設置されたカカシの胴体中央部を貫通した。
「………………ん?」
何が起こったか理解出来なかった僕は、再び同じ手順を繰り返した。
「えい」
──ズガピシャアァァァン!
「えい」
──ズドオオオォォォーン!
「えい」
──ゴロゴロゴロドオオオォォォーン!
「やめろアリア嬢! わかった! もうわかったから!」
「アリア様その辺に! カカシ君7号はもう消し炭になってますわ!」
再び杖を振りかぶった僕を、レザードとロレッタ嬢が必死になって止めてきた。
「ん? ああ……」
言われて初めて、僕は自分のしでかしたことに気が付いた。
長年に渡って生徒たちの腕試しにと使われてきた、魔法耐久力だけが売りのカカシ君7号が見る影もなくバラバラになり、ほとんど消し炭になっている。
「すまない。あまりのことに動揺してしまって……」
「動揺にもほどがあるだろう。というか君は魔法の素質が無いんじゃなかったのか?」
「ああ、そのはずったんだがな……」
自らの両手を見つめ、僕は呆然とつぶやいた。
「急に目覚めたということなんですの? それにしてはちょっと信じられない威力ですけど……。しかもこれって、『闇』魔法ですよね?」
ロレッタ嬢によるならば、魔法に地水火風の四元素に光と闇の二元素を加えた六つの系統魔法があるのだそうだ。
地水火風は自然状態にある元素に働きかけることで、光は太陽の力、闇は月の力をそれぞれ元素として力を行使することが出来る。
光と闇の二系統は希少で、特に闇は、ここ20年の間にひとりも生まれていないらしい。
「まあレイミアさんが『風』魔法を使えるらしいですから、お姉様であるアリア様に素質があるというのは特段珍しいことでもないのでしょうけど……。よく今まで見つからなかったというか……」
自身が『水』魔法の優秀な使い手であるロレッタ嬢は、不思議そうに首を傾げる。
「何か前兆のようなものはありませんでしたの? 自分の体の中に不思議な力の蠢きを感じたようなこととかは……」
「前兆……」
「なぜそんなことを聞くのかというと、主に外側に発せられる光魔法とは真逆で、闇魔法は内側に閉じこもるような性質がありますの」
「内側に閉じこもる……体の中の不思議な力……」
僕はすぐにピンと来た。
そうだ、考えてみればおかしな話ばかりだった。
最初、街中で出会ったチンピラども。
家を焼こうとした黒服。
何度も僕に挑んで来たレザード。
僕は多くの敵を打倒し、新学年が始まってからも、周りが目を見張るような身体能力を発揮してきた。
それを僕は、単純に前世での技術の蓄積が活きたのだと思っていたが、案外それだけではなかったのかもしれない。
例えばこう考えよう。
僕が目覚めたのと同時に、アリアの体内でも変化が起こった。
それは物理的な変化だ。
アリアの体の中心に衝撃が走り、電流を発生させ、ニューロンを活性化させ、瞬く間に全身に伝播した。
休眠細胞を叩き起こし、目覚めさせた。
その中に魔法の素質というチャネルがあって、それが僕の技術や経験とマッチして、こうして……。
「……なるほどな。これはつまり、闇魔法の力だったというわけか」
不思議な感慨があった。
貴族の家系に生まれたアリアはしかし、魔法が使えないせいでひねくれ、さらに怒涛のように襲い来る不幸のせいで悪役令嬢になるに至った。
一方で僕には家族が無く、生き延びる中で強さを学び、今日に至った。
今まで眠っていたアリアの素質と、日々地道に練り上げた僕の技術と。
両者が今、計らずも合致している。
それがなんだか、とてつもなく尊いことのような気がした。
けれどそれを上手く表現することができなくて……僕はしばし、言葉を失っていた。
アリアの中に眠っていた魔法の素質。
『闇』という響きが気になるけど、亜理愛はけっこう嬉しく思ってそうね。
さて、自らの力の秘密に気づいた彼女の今後が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!
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