「レイミア・デア・ストレイド②」
「お目覚めですかレイミア様……ってえええぇぇぇーっ!?」
お昼寝からバチリと目覚めると、レイミアはすぐさま毛布を跳ねのけた。
ベッドの下にあった肉球付きのもこもこスリッパを履くと、猫耳フード付きのもこもこパジャマを着たまま自室を飛び出して行く。
「レイミア様……っ? ちょっと待っ……。そんなに急いだら危な……っ?」
慌てて追いすがるベスを振り切りながら、ぱたぱた、ぱたぱた。働くメイドたちの間をすり抜けて庭園へ。
白く香しい小花の咲き誇る中を、東屋へ向かってまっすぐに駆けて行く。
その足取りに迷いが無いのは、彼女特有の勘……ではなく、純然たる能力によるものである。
この世界にはあって、亜理愛の世界には無い『魔法』。
レイミアに産まれつき備わっている『風』の系統魔法が、彼女の望むエサ……もとい、楽しいことの匂いを運んで来てくれるのだ。
香しくて、嗅ぐだけで嬉しくなって、思わず顔が綻んでしまうようなその匂いの源は──
「──お姉さまっ!」
「おお、レイミアか」
東屋のベンチに座るアリアに跳び付くと、アリアはすさまじい反射神経でこれを受け止め、そのまま高い高いするように抱え上げてくれた。
「何か楽しそーだねっ? 面白いことあったのっ?」
「ああ、聞いてくれレイミア。実は今、レザードとロレッタ嬢が……」
そう前置きして語るアリアの話は、あまりにも朴訥としていて面白みがない。
レザードとロレッタの仲が悪いかと思ったら実は良かったという、ただそれだけ。
だけどそれを、レイミアは面白いと思った。
ほとんど表情を動かさないアリアが、しかし内心ではものすごく嬉しく思っているのを知っているから。
これだけ美しくてこれだけ綺麗な人が、友達を作り共に過ごすというただそれだけのことを、心の底から嬉しく感じているのを知っているから。
「良かったねお姉さまっ。いいお友達が出来てっ」
「うん、そうだなレイミア」
「これで新学期も大丈夫だねっ」
「う、まあそれに関しては……」
レイミアは心の底から祝福したのだが、アリアは明らかに言葉を濁した。
アリアが通う王立学園は、フェザーンの街中に位置する巨大な教育施設だ。
フェザーン在住の裕福な家庭の子供が通うお坊ちゃま・お嬢さま学校で、今は春休み期間中である。
三日後のレイミアの入学と同時にアリアの新学期もまた始まるのだが……。
「僕はそもそも座学が好きではないし、新たな人間関係構築のことを考えると強烈なプレッシャーがだな……。どことなく表彰式とかダンスパーティの日を思い出すような……。いっそこのまま引きこもってしまってもいいような……」
「ええぇーっ!? 今までこんなに上手くやってこれたのにいぃーっ!」
脂汗まで流してコミュ障の虫を騒がせ始めたアリアに、レイミアはブーイングをした。
「ここまでのそれは、言うならばホームでの戦いだったから……。だが次からは学園という中立の……いや、そもそもの自分のキャラを考えるとアウェイと言っても過言ではなくだな……」
「大丈夫ですよアリア様! わたしがついていますから! とは言ってもわたしだってそんなに世渡り上手なわけではないですけども! 死ぬ時は一緒です!」
アリアを元気付けようと、ロレッタが凄い勢いで話しかけた。
「一緒に死んでどうする」
呆れたようにツッコむと、レザードはアリアを諭すように言った。
「一応俺も、かつての君の振る舞いについては聞いている。おそらくはなんらかの誤解だったのだろうが、周囲の反感を買うべくして買っていた存在であったとも。君が恐れている最も大きなものはそれだろう? だがな、それはそれだ。過去の君は過去の君。女性としても友人としても素晴らしい今の君を、俺たちは知っている」
レザードの言葉に、ロレッタ嬢はこくこくと何度もうなずいた。
「その上で約束しよう。君を絶対ひとりにはしないと。何かあっても、必ず俺たちが護ってみせると。なあ、アリア嬢。これでもまだ不安か? 家に閉じこもったままずっと過ごしていたいか?」
「レザード……」
友人の言葉にアリアは深く感動し──
「わたしもっ、わたしもご協力いたしますわっ」
ロレッタも負けじとアピールし──
「良かったね、お姉さまっ。みんなが助けてくれるようになったねっ」
孤独だった頃のアリアの姿を思い返しながら──レイミアはにっこり、満面の笑みを浮かべたのだった。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
第二章の友達作り篇はこれにて終了。
いよいよゲーム内最難関ゾーンである学園篇に突入するわ。
心強い仲間を得たアリアに果たしてどんな出会いが待ち構えているのか、乞うご期待ね。
さて、そんなアリアの今後が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!
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