「友達と友達と」
ダンスパーティの夜からほどなくして、ロレッタ嬢がうちに遊びに来るようになった。
遊ぶ場所はだいたいいつも同じで、庭園内の東屋。
ベスの用意してくれた紅茶やお菓子などを楽しみながら二、三時間話すという形。
もっと大人しいコなのかと思っていたら、これが思いの他よく喋る。
話の内容も文学に自然、政治に芸能と多岐に渡り、なかなか飽きない。
社交界での女性の立ち周りにも詳しく、個人的にはこれが大いに役立った。
「まあ、知識に行動が伴わないというか、わたしの場合本当に知っているだけなんですけども……」
深緑色のカジュアルなドレスの上にベージュのコートを羽織ったロレッタ嬢が、頬に手を当て憂鬱そうにため息をついた。
「わかるよ。お互い、人付き合いに難ありだものな」
「うふふ。そうそう、わたしたちは難あり同士ですものね」
僕がしみじみと共感すると、ロレッタ嬢はパアッと表情を明るくした。
「アリア様にそう言ってもらえると嬉しいです。ああ、本当に夢みたい……」
同類相憐れむというが、似たような境遇の僕がいることが救いになっているのだろう。ロレッタ嬢は両手を胸に当て、幸せそうに空気を吸い込んだ。
「……そういえば今日は、レイミアさんは?」
ふと思い出したように、ロレッタ嬢は辺りを見回した。
僕ある所にレイミアあり、といっても過言ではないぐらいにいつも僕と一緒に行動しているレイミアの姿が見えないのが不思議らしい。
「ああ、午後のこの時間はお昼寝していることが多くてね。もう少しすればパッチリ目を覚まして騒ぎ出すと思うんだが……」
行動力の権化みたいなレイミアだが、何といってもまだ六歳の子供だからな。
「まあ、それは今後の参考にな……ではなくっ」
なぜだろう、パチンと自らの頬を張ると、ロレッタ嬢は言い換えた。
「それは残念ですね。レイミアさんともお話したかったのに……」
ロレッタ嬢はレイミアと仲が良い。
本好き同士で引き合うものがあるのだろう、いつも楽しそうにお喋りしている。
「レイミアも同じ気持ちだと思うよ。僕はあまり本を読まないから、レイミアのする本の話がいつもよくわからなくて……。その点ロレッタ嬢なら博識だし多読だし……」
「いえいえ、わたしなんて……」
手をパタパタ振って謙遜するロレッタ嬢だが、彼女の存在はきっと、僕なんかよりもずっとレイミアのためになっている。
「……あら、風が出て参りましたわね」
折から吹き出した風に、ロレッタ嬢はコートの前をかき合わせて身震いした。
「ああ、外での長話が過ぎたかな。そろそろ中に入ろうか」
「いえ、大丈夫です。ほら、こうすれば……」
そう言うと、ロレッタ嬢は椅子を持って僕の隣にガタガタ移動して──
「……ね? 風も防げますし」
肩と肩をくっつけると、至近距離から僕を見つめて来た。
「お互いの体の熱で……熱で……ね、つ、で……!?」
どうしたのだろう、ボンッと顔から蒸気を噴き出すと、焦ったように僕から離れた。
「す、す、す、すいません調子に乗りましたっ! わたし如き路傍の石ころ程度の価値しかない人間が、あろうことかアリア様と体と体で温め合おうなどと大それたことを……っ!」
「ど、どうしたんだロレッタ嬢!? 変なスイッチが入ってるぞ!?」
「この罪、死をもって償わせていただきます!」
「待て待て落ち着け! バターナイフで手首を切るとかけっこう大変な作業だから!」
「で、では路傍の石ころらしく、その辺の石に頭をぶつけて……っ!?」
「死に方の問題じゃない! というかそのスイッチどうやったら切れるんだ!?」
ぎゃあぎゃあとわめくロレッタ嬢をなんとか思いとどまらせようとしていると……。
「──やれやれ、どうにも騒がしいな、おまえは」
苦虫を嚙み潰したような顔のレザードが現れた。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
レザードとロレッタの初邂逅。
さっそく険悪な感じだけど、どうなるのかしら。
特にアリアはコミュ障だから、出来たばかりの友達ふたりの仲違いを納めるなんてこと、出来るのかしら……。
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