「常習」
一歩、また一歩。
僕が階段を下っていくと、キャサリンはハッと驚いたような顔になった。
次にヤバいところを見られたというような顔になり、急いでロレッタ嬢の髪を手で整え始めた。
「あらまあこのコったら、アリア様の前でこんな格好して、はしたない」
などと、とってつけたような誤魔化しの言葉までつけ加えて。
メアリーも急いで姉に習った。
踏みつけていた本を拾い、表面を丁寧に払ってからロレッタ嬢の手に持たせてやった。
「ダメでしょ、ロレッタ。大事な本を落としたりして」
キャサリンと一緒になってロレッタ嬢の目を覗き込むと、にっこりと微笑みかけた。
今のことは絶対口外するなよという意味だろう。
「……」
相当に手慣れている。
誤魔化し方そして脅しつけ方に関しても、今初めてやった行為にはとても見えない。
ロレッタ嬢は普段からふたりにいじめられてきたのだろう。
「ごめんなさいね、アリア様。このコって本当にだらしないものだから。アリア様を見習って、もっときちんとしたレディになってほしいのだけど……」
「まあキャサリンお姉様。それではアリア様に失礼ですわ。ロレッタなんかがいくら頑張ったって、アリア様の足元にも及ぶわけないじゃない」
おほほほほ、と下品な笑い声を上げるふたり。
「そうか? そうでもないと思うぞ?」
僕はぼそりと告げると、ロレッタ嬢とふたりの間に割って入った。
震えるロレッタ嬢を隠すように、立ちはだかった。
「ロレッタ嬢はそんな下品な笑い声はあげないし、隠れて人をこそこそいじめたりもしない。自らの不備を弁え、反省することも知っている。君たちよりよっぽど立派な、レディとしての資質があるように思うね」
「なっ……?」
「げ、下品ですって……っ?」
僕の言葉に、ふたりは激しく反応した。
「この……レザード殿下のお連れだからと言って優しくしていたらつけ上がって! 蛮族の姫が!」
「たかだか男爵家のくせに! 王族に次ぐ力を持つ公爵家のわたしたちにそんな口を利いて許されると思ってるの!?」
本性を剥き出しにしたふたりが、口々に汚い言葉を投げつけてくる。
貴族の爵位の順序は公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の順番だ。
公爵が一番上で、男爵が一番下。
ふたりの言っていることに間違いはないが……。
「だからどうした。少なくとも我が家には、弱者を虐げ悦に浸れなどという卑しい家訓は存在しないぞ」
「い、い、卑しいですってえ~……っ?」
僕の言葉で火がついたのだろう、キャサリンが掴みかかって来た。
ロレッタ嬢の髪の毛を引っ張ったことと言い、どうにも血の気が多いようだが……。
「おっと、ケンカ相手は選んだほうがいいな」
「はあ? え……っ」
手首をとってぐるりと回すと、キャサリンの体はあっさりと縦に回転した。
レザード相手ならばこのまま地面に叩きつけてやるところだが、さすがにそうもいくまい。
僕は回転を制御すると、キャサリンをストンと足から地面に着地させてやった。
「え……え……今、何が……?」
キャサリンは何が起こったのかすぐには理解出来ないようで、ただ目をぱちくりさせながら辺りを見回している。
「ひいぃ……、ば、蛮族の姫……っ」
間近でその光景を見ていたメアリーは僕の力を悟ったのだろう、完全に怖気づき、我先にと逃げ出した。
当然そうなれば、キャサリンだってこの場にとどまる勇気はない。
「ちょ、ちょっと待ちなさいメアリーっ、メアリーったらっ」
妹を追いかけるように、これまた逃げ出した。
「……ふん。なんだ意気地の無い」
僕はそう吐き捨てると、改めてロレッタ嬢に向き直った。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
今までの相手みたいにボコボコするかと思ってドキドキしちゃった。
レディに手は上げないわよね、さすがはアリア。
さて、いじめっ子ふたりを一蹴したアリアの今後が気になる方は、下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いしますね!
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