「レザード・ウル・ヴァリアント」
女という生き物が嫌いだ。
いつも人の顔色を窺い、おべっかばかり使う。
周りを出し抜くことばかり考え、なんとしてでも俺へ取り入ろうとする。
しかも目的は俺自身ではなく、俺の家格に名誉に財産ときた。
実にくだらん存在だし、極力傍に寄って欲しくないのだが、第一王子というのは公的な立場だ。
博愛、寛容。嫌いなものを素直に嫌いとは言えない。
嫌いなものを受け入れたフリをして、へらへら笑いながら生きていかねばならない。
それはたぶん、この世で最低の生き方のひとつだ。
その女のことが気になったのには、そういった背景もあった。
女だてらに男どもをなぎ倒し、法の下に正義を執行する。
小説もしくは英雄譚に出てくる女傑のような生き様をしていると聞き、どんな人物なのかと気になった。
大柄で筋肉質で、蛮族の戦士のようなのが来たら笑ってやろうという浅ましい気持ちを抱きながら表彰式の壇上で待っていた。
だが、思ってみたのとは裏腹──
女は、アリア・デア・ストレイドは美しい少女だった。
雪の妖精のように幽玄で、油断すると魂ごと吸い込まれてしまいそうな危うい美しさがある。
それでいて、弱さは微塵も感じられないのだ。
ただそこに立っているだけで、大地に深く根を張る大樹のような安定感がある。
父上や母上、武官に文官、商業部門のお偉方と共に壇上に並びながら、俺は呆然とアリアの姿を見つめていた。
たくさんの賞賛の言葉が放たれ、握手が交わされ、やがて俺の順番がやって来た。
さて、何を言おう。
第一王子としてどう褒め称え、どんな風に接しよう。
あれこれと考えている俺の目の前を、しかしアリアは無言で通り過ぎようとした。
こんな屈辱は初めてだった。
公の場で、こうも綺麗に無視されるとは……。
嫌みの言葉が自然と口をついて出たが、アリアは動じなかった。
俺を煽るような発言で切り返すと、颯爽とその場を立ち去った。
──絶対に許さん。
以来、その言葉が俺の口癖になった。
俺を軽く扱い、子供のようにあしらったあの女に目に物見せてやると、心に決めた。
屋敷に乗り込み、決闘を挑んだのだが、結果はコテンパンだった。
木剣で体中いたるところを打たれ、拳で突かれ、何度も蹴り倒された。
組み技なら力でなんとかなるだろうと思ったレスリングですら、赤子の手を捻るように難度も転がされ、組み伏せられた。
プライドを粉々に打ち砕かれた俺は、そこで心を入れ替えた。
このままではいけない。
いずれヴァリアント王国を背負って立つ身として、弱いままではいられない。
ならばどうする?
答えは簡単、逃げずに立ち向かうのだ。
アリアの懐に入り込み、強さの秘密を盗むのだ。
強さを盗み、決闘で打ち負かして、そしていずれは……。
──この人を妻に迎えよう。
どうせいつかは妻を娶らねばならぬのならば、凡百の女などではなくこの人を。
美しさと強さ、気高さと凛たるたたずまいまでも兼ね備えたこの人をこそと、心に決めた。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
まあ、レザードったら積極的ね。
思い立ったら即行動どころか、将来のことまで決めちゃうなんて。
友達はもちろん恋愛にも縁遠かったアリアの反応が楽しみね。
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