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√365  作者: 三條 凛花
本編
27/32

パンプキン・パーティー

十一月一日の街は、クリスマス色になっていた。毎年見慣れた光景だけれど、胸がきゅっと締めつけられるような気がした。せめてあと1週間くらい「ハロウィンが終わった余韻」に浸りたいと思ってしまうのだ。


 胸のなかを風が抜けていくような寂しさが、いつもある。この2年間ずっと。

 大学生のころからつき合っていた人に突然別れを切り出されたのがきっかけだと思う。いっしょに暮らしたアパートを出て、行く当てもなく、友だちのところへ転がり込んだ。翌日、忘れものを取りに部屋へ戻ると、そこには女性もののくつがあって。ああ、よくあることだな、と頭ではわかっているけれど、それがいざ自分の身に降りかかってみると冷静ではいられなかった。


 変な話だけれど、ハロウィンからクリスマスに切り替わるたびに、あのときのむなしさを思い出す。私はたぶん、自分と同じように彼にも寂しさを感じてほしかったのだと思う。もしかしたら、後悔しているんじゃないか。忘れものはうそだった。本当はわざと置いてきたのだ。みっともなくも、そんな淡い期待を抱いていたからだった。




 かぼちゃがとても安くなっていたので、まるごと買って帰ることにした。昨日は部署の飲み会でなにもハロウィンらしいことはできなかったから、ひとりでパンプキン・パーティーをする。


 かぼちゃは固くて切りづらいから、そのままレンジに入れて少し温めた。そういえば、かぼちゃに刃が通らなくて苦戦していた私に、こんな裏技を教えてくれたのは、料理上手なあの人だった。

 冷静になってみれば幸せな、たのしい思い出のほうがきっと多いはずなのに、どうしようもなく許せないことや、傷ついたことがあると、そうしたきらきらした気持ちはすべて心の隅っこに追いやられてしまうのだと思う。いまだに彼のことを思い出すと、胸の奥がざらりとする。


 切ったかぼちゃは全部まとめてゆでて、4分の1はスープにした。冷凍しておいた飴色玉ねぎと牛乳を合わせてミキサーで撹拌する。比率は大体、野菜2:牛乳3が私の好みだ。そのあとは鍋で温める。バターを落とし、仕上げに粉末のコーンスープを加えるとかんたんにおいしくなる。

 それから同じようにグラタンとサラダを作り、最後の4分の1はパンプキンパイにした。毎年、ハロウィンの日はふたりでいっしょに作ったものだった。甘く味つけしたかぼちゃと、さくさくのパイ生地がおいしい。


 出来上がった料理は、食べきれないほどの量だった。困り果てていたら、会社の後輩から会わないかと連絡が来た。同僚から、彼が私に気があるらしいということは聞いている。私も決してきらいじゃない。でも、なにかが歯止めをかけていた。

 たぶん、傷つくのは怖いのだと思う。まだ始まってもいないのに、終わりのことばかり心配になってしまうのだ。それくらいには、彼との終わり方は私にとってのトラウマだった。



 しばらく悩んだけれど、このカボチャ料理で”2年間続いたハロウィン”にけりをつけようと決める。胸いっぱいに詰まった息を、ゆっくりと、深く吐き出す。震える手で彼にメッセージを送った。


「ごはんはもう作っちゃったから、よかったらうちに来ない?」と。


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