森へ逃げろ!
毎日毎日代わり映えの無い景色。
暮らしは決して豊かとは言わないけれどそれなりに暮らしている私は、日々に退屈を感じていた。
明日も変わらず朝が来て、畑の手伝いから昼には店の手伝い。
夕方はみんなの夕食を作って夜はたまに森に出て大岩の上に乗って満月を眺めるくらい。
やりたいことも無いし、ただ過ぎていくのを意識してしまえばそこから「つまらない」の連鎖は続いて行く。
小さな町の小さな悩み。
それは村娘達の毎日の中で少なからずある悩みだろうけれど……こればかりは何をしても解決しないだろう。
大岩の上で膝を抱えながら、私はため息を吐き出すだけの深窓の姫様なんてものじゃ無い事を思い出す。
そう、私の取り柄は諦めないこと。
そして行動力!それならこの町を出て生きていけるような何かを探して町を出てしまえば良いんだ!
ハッとして空を見上げると、村の中でも目立つ金の髪と同じ色の満月が光っている。
黒や茶色の髪が多い町の中で一際目立つこの金の髪。
売ればそれなりになると聞いていたのでずっと伸ばして来た私だ。
これなら売ったら少しはお金になるだろうし、後は町を出る理由。
町での生活に嫌気がさした?
それとも今後の生活において不安が出て来た?
でも多分お父さんもお母さんも「つまらないんでしょ?」って答え分かってるだろうしねえ。
うんうん唸りながらも答えは出ない。
今日のところは取り敢えず「町を出る理由」を探そう。
ただつまらないだけだと絶対許してくれないもんね。
私は満月を見上げながら、自分の髪と瞳が町の人と違う理由を考えた。
しかし長年のこの謎は解かれる事無く「キャルステアは亜種だから」と親戚筋の誰かに金に近い髪を持ってて突然変異なんじゃないか?と位置付けられたのだ。
もしかして生まれはどこかの貴族で、その内王子様が私を迎えにくるのでは!?とどこか浮き足立ったように考えるものの熱はすぐに消え去る。
そんなわけない。
そんな美味しい話はない。
もはや確信になりつつある私の脳内処理は速やかに行われ、大岩を後にした。
汚れたワンピースの泥をはたき落として家に戻ろうとすると、何やら広場が騒がしい。
何かあったか?喧嘩か?と足をそちらに向けようとすると、私に気付いた何人かが「キャルステアだ!」「そうだ間違いない!」と取り囲まれた。
みんな興奮していて、私の話しを聞くこともなく広場の中央へと連れ出す。
「ちょっと!いきなりなんなの!?」
女の子達がきゃあきゃあと騒ぎ出す中、夜にも関わらず祭りばりの賑やかさ。
誰かの前に出されたみたいで顔を上げると、そこには短い赤い髪と満月と同じくらいにきらきらした金の瞳を嵌めた美丈夫が居た。
簡易な鎧を付けて腰には剣。
近くの国の兵か、それとも……。
「金の髪に暁の瞳……間違いないな」
「は?」
私の前に膝跨いた。
その行為に広場にいる女の子達の声はもはや悲鳴になる。
既に私の腕は解放されている。
持っているお金は少ない……私は目の前の男の顔が上がる前にその場から逃げた。
広場の方では少しの間沈黙が流れたものの、すぐに声が上がった。
その隙に自分の部屋へ窓から侵入してリュックサックに財布とその他を引っ掴み服と毛布も手当たり次第にぶち込むとその足で村の外……さっきまでいた森の中へと向かった。
顔が熱い、こんなに走る事なんて中々無いから余計だろうがこのまま森の奥まで走る体力は果たしてあるのだろうか?
しかしそんな事も言ってられないだろう。
すぐに私の行動範囲を捜索されるはずだ……まあ、それほどの理由なのだとすれば。
しかし私はさっきの騎士の格好をした人に見覚えは無い上、町の人達のあの騒ぎようから結構な理由で探されていたのだろう。
満月も真上に差し掛かるこの時間に。
「……それにあの人、私の髪と瞳を見て確信を得たように頷いてた」
走りながら揺れるその髪を掴んで、思い当たるのがもう少し早ければ良かったと毒づいたのだった。